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子は子らしく


「……ふぅ。バイタル正常っと」


 アビエイター型〈ギア〉を跳ね上げ、リエリーは大きく息を吐いた。

 成人用の診察台に横たえたエンの体が、いっそう小さく見えて、リエリーは知らず、唇を嚙んでいた。

 と、耳の通信機に着信を報せる音が入り、嗄れ声が続いた。


『工場に着いたぞ、リエリー。エンの様子はどうじゃ?』

「安定してる。失神したっぽい」

『他には?』

「うちでできる検査じゃ、ぜんぶ異常なし。あとは、センターじゃないと」

『そうか。まずは一安心といったところかのう。ようやったな』


 未だうなされているらしいエンの体に毛布を掛けてやりながら、リエリーは強く拳を握り締めていた。


「……ぜんっぜんダメだよ。家は吹っ飛ばすし、エンのことだって、あたしが不注意だったから、こんなことになった。ロカのことだって……」

『あやつ、どうかしたかの? さては、まぁたおまえさんと無茶しおってルヴリエイトの折檻を――』

「――倒れたんだ、ロカ。いま、センターで寝てる」

『……何、じゃと……?』


 我慢できなかった。

 レイモンドは、自分以上に養父を知っている。他人には話せなくても、レイモンド相手なら気に掛ける必要がなかった。

 だから、全て話した。

 話しているうちに鼻の奥がツンとしてきて、リエリーは自分の頬を両手で叩いていた。


「心配させてごめん、レイ爺ちゃん。やっぱ、あたしはダメだ」

『何を言うとるんじゃ、リエリー。あやつは、おまえさんの父親じゃぞ。これでおまえさんが平気な顔しおったら、儂のゲンコツが落ちるところじゃ』

「レイ爺ちゃんのゲンコツ、落としてよ! そしたらあたし、もっとできるようになるかもだし!」

『これこれ、自棄になるのはよくないぞい。おまえさん、レンジャーじゃろうが。殴れば、頭がよくなるかの?』

「……まだレンジャーじゃないし」

『じゃったら、レンジャーになることだけ考えればよいて。そのためにおまえさん、ここまでやってきたんじゃろうが。弱音は構わんがの、自分を裏切るようなことだけはしてはならんぞ、リエリー。よいな?』

「……わぁったよ」

『それでこそじゃ。これからそっちに行くからの。まだ吹っ飛ばすな?』


 通信が切れ、リエリーはベッドサイドから鼻紙ティッシュを抜き取る。何一つ状況は変わらないが、先よりは体が軽く感じられた。


「――おとうさんっ!」

「おわっ?!」


 鼻をかんだ瞬間、微動だにしていなかったエンが飛び起きて、大きな声を上げていた。

 完全に隙を突かれてしまい、くしゃみの圧が頬の奥をズキリとさせる。

 それを我慢し、エンの元へ駆け寄った。


「だいじょうぶ? エン? 痛いとこは?」

「師姉さま! ぼく、わかったんです!」

「わかった……? なんのこと?」

「ぼく、おとうさんのいるところ、見えたんですっ!」

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