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エンのおとうさん

 ぼくに、おかあさんはいなかった。

 だから、おとうさんとずっといっしょだった。


 おとうさんは、とてもやさしかった。

 ときどき、怒るとこわかったけれど、いつもニコニコしていた。

 ぼくは、おとうさんが大すきだった。


 おとうさんは、お医者さんだった。

 おとうさんが言ってた。


 ――


 意味はわからなかったけれど、おとうさんはすごいって、ぼくはわかってた。


 

 おとうさんは、「ないしょだよ」って言って、ひとのカラダをうちに持ってかえってきてた。

 ひとのカラダは、すごい。

 おとうさんの話はほとんどわからなかったけれど、ひとのカラダがどんなふうにつながっているかは、ぼくにもわかった。


 ある日、ぼくがカラダをつなぐのを見たおとうさんは、とてもじょうずだって、ほめてくれた。

 ぼくもお医者さんになれるって、言ってくれた。

 でも、その日から、おとうさんは変になっちゃった。


 ぼくがひとのカラダを元どおりにつなげても、おとうさんは、「ちがう! そうじゃない」って怒った。とてもこわかった。

 だからぼくは、いっしょうけんめい、がんばった。

 いろんなひとのカラダをつなげたけれど、おとうさんはいつも怒ってた。


 ――完璧じゃない!


 おとうさんは、それしか言わなかった。


 その日、おとうさんは、めずらしくお酒を飲んでた。

 あいつらはなんにもわかっちゃいない。

 おとうさんは、そう言って、朝からお酒を飲んでた。


 ぼくは、おとうさんに喜んでほしくて、またひとのカラダをつなげてた。

 そこにおとうさんがやってきて、怒った。


 ――こんなのは無意味だ!


 それからおとうさんは、部屋をめちゃくちゃにしちゃった。


 ぼくは、「やめて」って止めた。

 でも、おとうさんは止めなかった。

 ぼくは初めてぶたれた。とても痛かった。

 泣いたら、おとうさんがお酒のビンを投げてきた。


 それで、いやな音がした。

 ぼくはビックリして、走った。

 おとうさんは、追いかけてこなかった。

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