目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

Introduction X.歴史家ウルフビョルン著『ルカリシア全史 テーマ史 ~涙幽者と黒狼~』より

 ……『涙幽者スペクター』という名称は、なかなかに言い得て妙である。前述した通り、現在、急性狼化症候群として知られるこの身体変化の結果、対象は鬼さながらの変貌を遂げ、白で体毛を濡らし染める。

 彼らが何故、白泪ソウルティアを流すのか、科学者諸氏の解明が待たれるところだが、ここに筆者の持論を示す。

 白泪ソウルティアを涸らした時、彼らの命が尽きるのは周知の事実だ。であるなら、白泪ソウルティアとは彼らの『生命』そのものではなかろうか。その『生命』が涸れ果てた時、自ずと命が潰える。このように推論するならば、白泪ソウルティアが極めて有用な薬としての成分を含むことの説明ともなる。


 他方、黒狼においては、過去も現在も、白泪ソウルティアの存在が確認されていない。彼らは涙幽者に極めて類似した外見を持つ一方で、白泪ソウルティアを伴わず、代わって、個体としては恐るべき威力の個有能力ユニーカを行使する。

 仮に、筆者の仮説が正しいとするならば、黒狼には『生命』という概念が存在しないという帰結に至ってしまう。であるなら、彼らを如何に定義付けるべきか。目下、世界救命基金ルフゥの見解では……


※註釈……本文中には現代において差別用語となる語句が含まれるが、原文のまま記載した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?