「――っ」
自分の肩のあたりまでしかない身長が、一瞬で視界から消える。
加減していたとはいえ、それなりの力を込めて襟首をつかんでいたはずなのだが、それも振り払われていた。
(こんなことで、
〈ユニフォーム〉の身体強化も驚異的ではあるが、所詮、機械による強化に過ぎない。どちらかといえば持続性を重視しているそれに対し、
だからこそ、その使い方一つで人となりがわかる、というのがアキラ・レスカの持論だった。
そして、その持論に照らし合わせるなら、あの威療助手の少女は、激昂したくらいで不意討ちを掛けてくるタチではなかった。
「――さっさと取り消して。あんただって暇じゃないんでしょ」
「い、いつの間に?!」
案の定、斜め後ろから声変わり前の声がし、アキラはわざとゆっくり振り返りながら、敢えて相手をしてやらない。
「落ち着け、おまえら。今日は非番だ。帰って寝やがれ。寝れねぇヤツは、鍛練か装備の点検しとけ。どっちもやってねぇヤツは、次の当番までアタシと特訓だかんな?」
「リーダー、このレジデント、黙らせたい」
「そいつには賛成だがな、おまえのやることじゃねぇよ、ヴィキ。おまえはうちのサブリーダーなんだ。こいつらのお守りをたのんだ」
「わかった。野郎ども、わたしが見張る」
「おうよ。聞いたな? サブリーダーはアタシより怖ぇぞ。さっさと行け!」
しぶしぶといった様子で、クルーたちがその場を離れていく。大半がリエリーにガンを飛ばしていったのを見て、アキラは目を覆いたくなったが、かろうじて無表情を保った。
「待たせたな、レジデント」
「で?」
「アタシが言ったことを取り消せだって? そんで、はい、そうですか、なんて言うと思ったか?」
「思ってない」
「はっ! んなとこだと思ったよ! ちょうどいい。アタシもちーっとばかし、体が鈍ってんだ。いい時間だしな。空いてんだろ」
「5番リング。ワンラウンド、KOのみ」
「いいねぇ。アタシはべつにユニーカ使っても気にしねぇが?」
「ふざけてんの。なしに決まってんじゃん」
キッと、こちらを睨め付け、返事も待たずにポニーテールが足早に立ち去る。
その背中へ目をやりながら、アキラは肩をすくめて言う。
「おまえ、わかりやすすぎ」
そう溢した自分がニヤけているのに気付いて、アキラは慌てて目的地への別ルートへと、駆けていった。