チトチトテン テトテトテン テトテト チトチト テトテトテトテトテン♪
パチパチパチパチパチッ
えー、お時間もあれですが、もう一席だけお付き合いくださいませ。
あはははは
とんっとん
世の中では、ずいぶんと風変わりなものが流行ることがございまして……
昭和のはじめから活躍しておりました太宰
戦後すぐのことでございます。その某てえのが玉川上水で愛人とふたりで入水自殺……、おばいたしました。
とんっとん
今で言うところの、芸能人とかアイドルみたいなもんだったんでしょうな。やれ純愛だ! 誠の愛だ! なぁんて
なにがって? そりゃあーた……あっちでどぼーん。こっちでもどぼーん。
男と女の心中が流行したんでございますよ。
しーーん
中には流行りに乗らなきゃ江戸っ子の名が廃るってもんで、心中するために見合いをするってぇ馬鹿まででる始末。これにぁ、お上もたいそう頭を悩ませていた……そんな折……
上 「こいつはどうも弱ったねぇ、自殺ってことにはならないかね」
下 「それはいくらなんでも警部殿」
上 「だろうねぇ。まったく只の心中だけでもこっちは手一杯だってのに……」
二人の刑事が悩むのも無理はない。ある日、一組の心中と思われる遺体が川っぺりに打ち上げられた。一人は年の頃なら二十歳そこそこ、たいそう美しい娘さんで……
上 「片方はいい。若い娘でそりゃぁ可哀想だが…………もう片一方……」
下 「…………人形ですもんねぇ~」
当時の入水心中ってのは、あの世に行っても離れ離れにならねぇようにとお互いの手首、足首をきつーく結びましてね。それでも足らねぇってんで、胴回りにも帯ひも括り付けてってぇのが
両目には蒼いガラス玉が入った陶器の人形でございまして……
上 「普通の人形相手に心中したならいいんだが……おい、ちょっと持ってみろ」
下 「かしこまりました警部! ん……くっくくく。こりゃ重てえ!」
上 「素焼きの二度焼きだ。これを女ひとりで持ち運べたと思うかい?」
下 「西洋のからくり人形で、自分でよいしょと歩いてきたとか? 」
上 「馬鹿言ってんじゃないよ。はぁ弱ったなぁ」
困りに困った警察は、――今じゃ浮気調査だ、別れさせ屋だなんて職業ですが――当時は本物の名探偵なんて呼ばれている御仁がおりまして……
とんっとん
下 「旦那。またわけのわからねぇ仕事をお引き受けなすったね」
上 「お前のその古くさい言い回しはどうにかならないものかね? 戦後だよ?」
下 「殺しですぜ? 殺しとなりゃこういうしゃべり方が一番でさぁ」
上 「好きにおし。仕方がねぇ飯の種だ。聞き込みに行くよ」
下 「へい! がってん」
若い女の身元を調べるってぇと、当時としては珍しい女学生様。いまで言うところの女子大生ですな。それも関東大震災前までは御茶ノ水にあったという名門中の名門の女子大……つまりは、大層なインテリだ。
実家のほうも裕福で、近所で話を聞いても悪い噂なんかこれっぽっちも出てきません。
下 「弱りましたね。若い娘なんで、てっきり男が絡んでいやがると思いやしたが」
上 「仕方ない。女学校の方にも聞き込みだ」
下 「黄色い
上 「軽口言ってないで早く行くよ!」
下 「とほほ」
天下の名探偵とはいえ今度ばかりはお手上げの謎のようでして、良家のご学友につらつら~と聞き込みをいたしましたが、めぼしい話は聞けずじまいの疲れて帰る、帰り道。
下 「しかしまぁ、聞けども聞けども評判のいい娘でやしたねぇ」
上 「そうさねぇ。ますます不憫なことだよ」
下 「決めた! どうあってもあっしは犯人を見つけてやりますぜ!」
上 「いや……まぁ……犯人はわかったのだがねぇ、どうしたものか……」
下 「はがぁ?」
季節は秋。そろそろ寒さも厳しくなった夕暮れ時。日が陰る中をあの辺からこの辺まで二人のながぁい影が伸びまして、カラスがカァカァっと……え、準備整った? あそ? 遅刻していた
お待たせで。
あはははは
とんっとん
下 「そりゃぁ、
上 「うん? 見たろう? 女学生のひとりが手首に包帯巻いていた。左手だ」
下 「はぁ? それがなにか?」
上 「鈍いねぇ。死んだ娘の縛り痕は右手。丁度、
下 「……え?」
上 「靴下を脱がせれば、足にも痕があるはずさ。だからこその……人形のお出ましだ」
とんっとん
仰ぎ見て
傾げて
上 「不細工な話さ。でもまぁ、警察の目はうまく誤魔化せたねぇ」
下 「で、どうなさるんで? 解決しないと銭はもらえないんでやしょ?」
上 「心中の生き残りとあっちゃぁ、あの娘にも罪はある。あるっちゃあるが、女と女の心中だ。世間に知れたら、もう生きてはいられないだろうよ」
下 「あー、つまり……畜生! しばらく飯抜きかーー!」
上 「しょげるんじゃないよ。わたしたちの腹が減るのは……人形じゃない
とんっととん! とんっ!
えー、LGBT(性的少数者)は生産性がないだなんて、人間味のない惨い言葉を吐く国会議員もいるそうですが、愛の形なんてものは昔から変わらず色々とございましたわけで、真実から目をそらしたり、それを押さえつけたりする世の中にだけはしたくないものでございます。
わたくしども、
禿げいじり
独身いじり
ラーメンいじり
馬鹿いじり
○平いじり
色々とやってはおりますが、それは高座の上でのプロとしてのお遊びで、お客様方には、どうぞご存分に笑って頂きたく存じます。
……ただし。わたくしの不倫いじりだけはどうぞお手柔らかに……(ぺこり)
あはははははは
……丁度、時間となりました。おあとがよろしいようで……(深々とぺこり)
パチパチパチパチパチパチパチッ
チトチトテン テトテトテン テトテト チトチト テトテトテトテトテン♪