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第3話

――目が覚めたら突然別人になっていた。


そんな驚きと共に暴力に晒されたエルシャール

――紘子はやけにリアルな夢を見ていると他人事のように事実を受け入れていた。

髪を引きちぎられて、背中を蹴られる痛みが現実だと教えてくるまでは。


♢♢♢


「……ソレイユ?」

「アンタがソレイユ様を呼び捨てにするなんてどういうつもり……!!」


突然出てきた言葉に驚いたエルシャールはただ疑問を口にしただけだった。

聞き覚えのある名前に、婚約者と言ったサンドラを見上げながらエルシャールは自分の状況を整理することに忙しかった。


(もしかして……『私だけが知っている物語』に転生した?)

その話は、ヒロインをめぐってエルヴィン王子とソレイユ辺境伯が織りなす三角関係が話題の新作作品だった。


「……聞いてるの?ねえ、エルシャール・ラビリンス!!」

「ごめんなさい、無視をしていたわけじゃ……」

「ふふ、私に対して言い訳をするつもり?……まだ自分の立場がわかってないなんて!!」


エルシャールが何も言わずに冷静に考えをまとめていた事で、無視をされたと思ったサンドラは、目を吊り上げてわかりやすく怒りを表した。

いつもならサンドラに対してすぐに謝り縮こまるはずの姉に疑問を持つことなく、サンドラはエルシャールへと再び手を伸ばす。

サンドラの手が振り下ろされる。

その時だった。


「やめないか、サンドラ」

「……っ!!――お、お父様」


突然聞こえた言葉にエルシャールはサンドラと共に部屋の入口へと視線を向けた。

そこに立っていたのは、立派な口ひげを指先で整えながら鋭い視線をサンドラに向ける父、デリスの姿だった。


「どうして止めるの!」

「やめなさい、もうすぐソレイユ様がうちに来られると言っていただろう」


怒りの矛先を父親に向けたサンドラを嗜めるデリス。

彼は二人の娘に近寄って来ると、サンドラを優しく抱き留め、座り込んだままのエルシャールに鋭い視線を向けた。


「―ーなぁ、エルシャール」


エルシャールは、名前を呼ばれただけで床に頭を擦りつける勢いで下げた。

言葉を発しようとするが、喉に舌が張り付いたように動かず、エルシャールの背中に冷や汗が流れる。

まるで人を人とも思わない視線。

その目は紘子であった時の父が向ける視線と瓜二つだった。


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