修学旅行も無事終わり地元に帰って来た僕たちはいつもと変わらない日常生活を再開した。
今日も僕は冬李と一緒に学校へ向かって歩いていた。
「はぁ……今日の英語めんどくせぇ」
「そう言えば今日の授業で当てられるんだっけね」
「俺の心も天気も晴れねぇわ……」
「上手いね。ってまぁ確かに微妙な天気。傘持って来てないから降らなければ良いけど」
山の方には黒い雲が広がり冷たい風が吹いて来ていた。
朝の天気予報では今晩一時的に雨が降ると言っていたがこれは早まりそうだ。
周りを見ると傘を持っている生徒がちらほら居た。
「最近、夜は涼しくて過ごしやすいよな。筋トレ後には最適だ」
「窓開けるだけで良いからね。開けすぎているとちょっと寒いけど」
「そういえばそろそろ衣替えの時期だっけか?」
「来週から衣替え移行期間入るね。冬服でもスカートってのはちょっと辛いけど……」
「冬服と言っても上にブレザー着るだけだからな」
京都に居たときは日が当たると暑いくらいだったのにここ最近急に冷え込んで来ている。
学校に着いた僕は冬李と別れ一人職員室に日誌を取りに向かっていると職員室から小春が出て来た。
「小春、おはよう」
「おはよー。今日は早いわね」
「日直だからね。小春も最近朝早いね。電車で会わないし」
「ちょっと生徒会の事でね。修学旅行から帰って早々忙しいのよ」
「大変そうだね」
「もう慣れたわ。あっ、そうそう、この前の修学旅行の写真でこれ見せていなかったわね」
「なになに?」
小春はスマホでとある写真を見せてきた。
それは帰りの新幹線で僕が冬李の肩に寄りかかり2人して寝ている写真だった。
「良く撮れてるでしょ?」
「ちょっ! 消してよそれ」
「だーめっ」
「それなら僕だって、……ほらっ」
僕はスマホで嵐山のお土産屋で小春と秋吾が楽しそうに買い物している写真を見せた。
どう見てもデートに見える感じの写真だ。
小春にからかわれた時用に密かに撮影をしていた。
「いつの間に!?」
「小春と秋吾もお似合いだと思うけどね」
「うっ……」
小春は頬を赤らめ目を逸らした。
なんだか反応がおかしい。
僕は金閣寺の事を思い出しもしかしてと思い小春に尋ねた。
「もしかして秋吾の事……」
小春は恥ずかしそうに小さく頷いた。
意外だった。話しを聞くと小春は高校で秋吾と出会ってから徐々に好きになってしまったらしい。
でもこの4人の関係が崩れるのが嫌で黙っていたが僕が女の子になり冬李と仲良くしているのを見て、より秋吾の事を意識するようになったとか。
「そうだったんだね」
「……よし、決めた。今日の放課後、秋吾君に告白するわ」
「えっ、本気!? というか、いきなりだね」
「本気よ。待って居たら誰かに取られちゃうかもしれないし」
「確かに秋吾ってモテるからね」
「ってことで琉夏も冬李に告白しちゃいなさい」
「だから何でそうなるの!?」
「冬李の事が好きなんでしょ?」
「好きというか……だって僕たちは親友だし」
「そう言って逃げていたらダメよ。いつまでも親友ってわけにもいかないでしょ?」
「別に逃げている訳じゃ……」
しかし小春の言葉が胸に刺さったのは本当の事。
最近は意識しちゃうと途端に冬李と話すのが緊張してしまうようになっている。
1限目の授業が終わり僕は先生と一緒に宿題のノートを職員室に持って行った。
そして教室に戻る途中、廊下で秋吾と出会った。
「琉夏、ちょっといいかな?」
「なに?」
小春の思いを知るとなんだか気まずい。
秋吾は辺りを見渡し誰も居ないことを確認した。
「ちょっと相談なんだけど、相手の事を好きってどんな気持ち?」
「えっ!?」
「あっ、急にごめん。この前本で何か面白い事とかを話したいと思った相手が好きな人かもしれないって読んでさ、それに関してなんだけど最近小春さんの事をよく思い出すんだよ。でもこれが好きって気持ちなのかただ話しやすい女友達としてなのか分からなくて……」
「他には何か小春の事思う時はあるの? もしくはドキドキするとか」
「そういえば修学旅行で渡月橋を一緒に渡っている時みたいに2人きりになった時なんだかドキドキするんだ。他の女子と話すときは何もないんだけど」
何となく分かっていたけどやっぱり間違いない。秋吾も小春の事が好きみたいだ。
でも本人は良く分かっていないみたい。
ここで僕が小春は秋吾の事を好きだと言うわけにはいかない。
何て答えれば良いのか……。
考えていると廊下に予鈴が鳴り響いた。
「時間取らせちゃってごめんな。相談に乗ってくれてありがとう。琉夏も頑張って」
「あ、うん。……ん?」
修学旅行が終わってからも校内のカップル数は増えている気がする。
教室に戻り急いで黒板消しで黒板を擦っていると上の届かず手を伸ばしていると冬李が手伝ってくれた。
「手伝うぞ」
「ありがとう」
「良いって。しかしあの先生自分が背高いからって黒板の上までぎっしり書くよな」
小春や秋吾の事を聞いた後から冬李が近くに居るだけでもドキドキしてしまう。
でも僕は2人みたいに勇気が無い……。告白して関係が崩れるのが怖いからだ。
そして放課後。小春は秋吾を旧校舎裏に呼び出した。
ここは告白する場所の定番スポット。
僕は小春にお願いされ旧校舎3階にある空き教室から告白の様子を見守っていた。
小春と秋吾は何かを話した後、小春は突然秋吾の胸に飛び込んでいた。
見た感じ告白は成功みたいだ。なんだか羨ましいと感じる。
2人が手を繋ぎその場を立ち去った後、僕のスマホに小春から「告白成功。ありがとう。そっちも頑張って」とメッセージが来た。
付き合うってやっぱり良いのかな?
そんなことを思いつつ教室に戻ると冬李だけが残って居た。
「やっと戻って来た。どこ行っていたんだ?」
「ちょっとね」
「さっき秋吾から聞いたけどあいつ小春と付き合うことになってマジか?」
「……うん、本当だよ」
「まじかぁ、あいつそう言うのに興味無いと思っていたんだけどな。まぁ俺たちもいつか誰かと付き合ったりするんだろうな。あっ、でもそうするとお前と一緒にゲームしたりして遊ぶ時間減るよな」
「……そうだね」
苦しい。辛い。
この気持ちから今にも逃げてしまいたい。
好きって何なんだろう? 憧れの好きとはまた違う。
なるべく考えないようにしていたけどもう耐えきれない。
「最近クラスの奴らも付き合っている奴増えたよな。やっぱりそういう年頃ってやつなのかもな。隣のクラスの竹中も修学旅行後に付き合い始めたって聞いてさ―――」
「ごめんっ! 僕用事あったんだ。先に帰るね」
「おい、琉夏っ」
僕は耐えきれず学校を飛び出した。
無我夢中に走っていると徐々に雨が降り始めた。
「(何してるんだろう僕は……)」
傘も差さずに歩いていると後ろから誰かが傘を差してきた。
振り返ってみると息を切らした冬李だった。
「はぁはぁ……やっと追いついた……」
「冬李……」
「突然走って行ったから心配したぞ。カバン忘れて行くしさ」
僕が女の子になっても冬李はいつもと変わらない態度で接してくれる。
それが逆に辛く、胸が張り裂けそうに痛い。
「どうした? 取り敢えずタオルで―――」
冬李がバッグからタオルを出そうした時、僕は思いっきり冬李の胸に抱き着いた。
「お、おい何だよ急に。冷たいだろ。それに胸が――……琉夏?」
「どうして冬李はそんなに優しいの? そんな事されたら僕は……僕は―――」
僕の瞳からは涙が次々溢れ雨と共に頬を伝っている。
堪えようにも堪えられない。
それを見た冬李は僕の身体をそっと抱きしめた。
「……ごめん。お前がこんな身体になって大変なのにな。俺、意気地なしだから今までみたいに接して気を紛らわせて居たのかもしれない。結果それがお前を苦しめていたんだな。なら俺は正直になるよ」
「えっ? どういう―――」
「俺は琉夏の事が好きだ。琉夏の返事が聞きたい」
「僕は……僕も冬李の事が好き! 冬李の彼女になりたい! だから……その……」
「ん?」
冬李は僕の小声を聞こうと腰を屈めた瞬間、僕は背伸びをして冬李にキスをした。
胸の奥にあったモヤモヤや苦しみは全て消え幸せな気分で一杯だ。
「ちょっ!」
「えへへ、今日から僕が冬李の彼女だからね」
気が付くといつの間にか雨は止み空には大きな虹が掛かっていた。
僕たちは手を繋ぎ太陽の日で照らされた下を歩いた。