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第7話 この気持ちは

 修学旅行2日目は朝食後から夕食前までは班行動だ。

 僕は冬李、小春、秋吾と一緒に計画していたところを回る為ホテルのロビーに集まっていた。


「最初はどこから行くんだっけ?」

「えーっとね。最初は伏見稲荷大社ふしみいなりたいしゃって所だよ」

「千本鳥居の所ね。秋吾君道案内良い?」

「うん、それじゃ駅行こうか」


 僕、冬李、小春は秋吾の後を付いて行き電車に乗り伏見稲荷大社へ向かった。

 最寄りの稲荷駅に到着すると大勢の観光客が一斉に降りた。みんな目的地は同じらしい。

 混み合う改札口をなんとか出ると目の前に朱色の巨大な鳥居が見える。伏見稲荷大社に到着だ。


「すげー、こんな駅前にあるんだな。千本鳥居ってのはここなのか?」

「正確にはもう少し奥の方にあるんだ。本殿とか見ながらそこに行こう」


 僕たちは朱色の巨大な鳥居を潜り真っ直ぐ続く参道を進むともう1つの朱色の巨大な鳥居と楼門ろうもんの前に着いた。

 楼門は凄く鮮やかな朱色でその前には2匹の狛狐が置かれている。

 小春は楼門を見上げていた。


「建物が全部赤いわね。不思議」

「実際は赤色じゃなくて朱色なんだ。朱色は魔力に対抗するための色って言われているんだよ」

「へぇ~、秋吾君って物知りなのね」

「そんなことないよ。俺昔から本読むのが好きなだけだから」

「他に何かここについてある?」

「えーっと、例えばあの本殿なんだけど―――」


 勉強熱心の小春は知識豊富の秋吾から色々教わっていた。

 知識を語る秋吾もなんだかすごく楽しそうに見える。

 楼門を潜った僕たちは本殿などをスマホのカメラで撮ったりしながら目的の千本鳥居へ向かった。

 階段を上っていくとその先に数多く並べられた朱色の鳥居が見えた。


「凄い数あるわね」

「ねぇ秋吾。これ本当に千本もあるの?」

「実際は800くらいらしい。稲荷山全体だと1万はあったかな」

「これが1万もあるのか。やべぇな」


 目の前は永遠に続くかのように鳥居が並んで立っている。まさに鳥居のトンネル状態だ。

 小春は秋吾から色々ここの話しを聞きながら先を歩き、僕は冬李と一緒に2人の後を付いて歩いた。

 千本鳥居の道は木と鳥居の影で薄暗く涼しかった。


「意外と暗いね。ちょっと怖いかも……」

「そういえば琉夏って昔からこういう薄暗いところ苦手だよな」

「誰かと一緒なら大丈夫なんだけどね」


 そう言って僕は冬李の腕にしがみつきながら歩いた。

 途中で何度か日の光が入る場所に出たと思ったらまたすぐに鳥居の道が続いた。

 そしてようやく終わりが見えてきた。


「今度こそは出口だよね?」

「さすがに終わりっぽいぞ。結構歩いたし疲れたな」

「小春ー、秋吾ー。少し休んで行こうよ」

「そうね。どこか休めるところあるかしら?」

「もう少し行ったところに自動販売機あったからそこで休憩しようか」


 僕たち気に囲まれた道を歩き最初に通った楼門近くに辿り着いた。

 人が多くなんだか安心する。


「出店あるな。何か買うか」

「それじゃ俺たちで何か買ってくるから琉夏と小春さんは休んで待ってて」

「うん、ありがとう」

「そこの日陰に居るわね」


 冬李と秋吾は出店の方へ食べ物と飲み物を買いに行き、僕と小春はその間近くの日陰で待つことにした。


「日が出ると少し暑いわね」

「そうだね。小春は暑いのが苦手だったよね。大丈夫?」

「これくらいなら大丈夫よ。そういえば今朝どこか行っていたの?」

「早く起きちゃったから屋上露天風呂にね。朝だったから人が居なくて助かったよ」

「私も行けばよかったなぁ~」

「小春も入ってみたら? 景色がかなり綺麗だったよ」

「それじゃ今晩入ってみようかな。夜景とか見えそうだし」

「是非是非」

「一緒に入る?」

「それはちょっと……」

「一緒に入りましょうよー」

「ん~……考えておくよ」


 小春と話しているとペットボトル飲料と出店で買った食べ物を持った冬李と秋吾が戻って来た。


「おまたせ。飲み物買ってきたよ。後ついでにこれも」

「出店で美味そうな串焼き売っていたから買ってきた。琉夏と小春にやるよ」

「いいの? ありがとう」

「美味しそうね。頂くわね」


 僕と小春は冬李から串焼きを貰い秋吾からはペットボトル飲料を貰った。

 外でこうやって何かを食べるのは昔行ったお祭りを思い出す。

 休憩した僕たちは次の目的地である東福寺へは歩いて向かうことにした。


「こうやって名所から名所に移動するだけでも楽しいね」

「なんか新鮮よね。電車とかだとあっという間だけど」


 みんなで話しながら歩いているとあっという間に東福寺が見えて来た。

 僕たちは境内に入り通天橋つうてんきょうへ入った。

 木造の橋だけど思った以上にしっかりしている。

 下を覗くと小さな川とたくさんの木が植えられた庭のような場所が見えた。


「微妙に紅葉し始めてるね。もう少しなのかな?」

「11月中旬頃が見頃らしい。ここが赤一色になるんだよ」

「僕も見てみたいな。修学旅行がもう少し後だったらいいのにね」 

「その頃は期末テストがあるから無理だろうけど」

「そうだった……」

「なぁ小春。この下って降りれるのか? 人が居るみたいなんだが」

「この先に降りれる場所があるみたいね。ほら、ちょうど降りてる人が見えるわ」


 僕たちは進み通天橋の下に見えたところへ降りた。

 秋吾の情報によると紅葉シーズンのピーク時にはここが人で埋め尽くされるらしい。全然想像が出来ない。


「ここが人で一杯ねぇ。全然想像が出来ないわ」

「だよね。ある意味これくらいの時期で良かったのかも。空いてるし」

「どこか座れる場所無いかしら?」

「パンフ見てみるね」


 僕は入り口で貰ったパンフレットを開いた。中には歴史や境内図が描いてある。


「えーっとね、さっき降りて来た所とは反対側に行くと開山堂かいさんどうって所があってその横に座れるところがあるみたいだよ」

「私、冬李と秋吾君呼んでくるわね」

「分かった。僕は先に先の降りてきたところに行ってるね」


 僕は先に行き、後から小春が冬李と秋吾を連れてやってきた。

 少し歩くと開山堂へ続く道を歩いているとこの先には道が無いのか観光客とすれ違った。

 開山堂に着き門を潜ると左手にある縁側のような所で何人かの観光客が座って休んでいた。

 僕たちもそこへ座り休憩した。

 風が心地よくて静かで落ち着く。

 座りながら周辺の写真を撮っていると冬李のお腹の音が鳴った。


「腹減って来たな」

「そろそろお昼ね。嵐山にあるお店でお昼にしましょ」


 僕たちは電車で次の目的地である嵐山へ向かった。

 目的は昼食&観光&お土産だ。

 嵯峨嵐山駅に着き降りて住宅地を抜けると数多くのお土産屋や飲食店がある通りに出た。


「凄い数のお土産屋があるね。ここでお土産買って行く?」

「その予定よ。まぁ今買うと荷物になっちゃうからここを出る時に買いましょ」

「その前に昼飯だな。どこか良いお店あるか?」

「ここのお店に行くわ」


 小春がスマホのマップでお店の情報を開いて見せた。

 抹茶などのスイーツもある良い感じのお店だ。

 僕たちはそのお店へ行くと運がいいことに並ばず入ることが出来た。

 席に座りメニューを見ると抹茶パフェや抹茶プリン、抹茶ケーキなどメニュー一面が緑色に覆われていた。


「僕はこの抹茶のロールケーキと抹茶パフェにしてみようかな」

「私も抹茶パフェと――あと抹茶プリンで」

「俺はこの明太うどんの大盛にするかな」

「それじゃ俺もこのうどんと抹茶ティラミスで」


 注文してしばらくすると料理が運ばれてきた。

 記念に写真を撮り各自食べ始めた。

 甘さの中にほろ苦さがあってすごく美味しい。

 地元でも抹茶系はあるけどこっちの抹茶スイーツはなんだか違う感じがする。


「ねぇ秋吾君。午後の予定ってどんな感じ?」

「えーっと、この近くに天龍寺って所があってそこを見た後に竹林を歩いて常寂光寺じょうじゃっこうじのある山を登る予定。そんでここの近くでお土産買って最後に水族館。今日結構歩くかも」

「お土産買ったら一度ホテルに荷物置きに行く? 近く通るみたいだし」

「そうしましょ」


 食事を終えた僕たちはお店を出ると天龍寺へ向かい、正面になる法堂へ入った。

 何やら特別公開している物があるらしい。

 秋吾はこれが楽しみだったらしく真っ先に法堂に入り、僕たちも後を追うように中に入った。

 中では皆上を見上げている。僕たちも見上げるとそこには天井に描かれた巨大な龍の姿があった。


「うぉっ! すげぇな」

「ちょっと怖いかも……」

「そうね。目力が凄いわ……」


 僕と小春は冬李の腕に左右から挟むように掴まった。


「お、おい。動けねぇだろ。秋吾助けてくれー!!」


 冬李の助けも虚しく秋吾は天井に描かれた龍の絵に見入っていた。

 見終わった後、天龍寺の庭園を見ながら竹林の小径へ向かった。

 そこは空を覆うように伸びた竹が並んでいる道だ。

 ここだけ別世界のように緑一色に覆われている。


「ここ静かで僕好きかも。ねぇ秋吾、ここってどれくらいの長さなの?」

「ここは100メートルちょっとかな? 歩けばあっという間だよ」

「もっとあるように見えたよ」

「全体を合わせると400メートルくらいだけど俺たちは途中から入ったから。ほら、あの先曲がればもう出口だ」

「本当だ。あっと言う間だね」


 竹林の小径を抜けその先の目的地である常寂光寺じょうじゃっこうじへ向かった。

 ここも紅葉の名所らしい。

 11月末になると一面赤色になるらしく秋吾は一度来てみたいと言っていた。

 僕たちは木々の間にある石階段を上がった。

 小春と秋吾はどんどん先に上がっていき僕は冬李と一緒にゆっくり上がった。


「琉夏大丈夫か?」

「大丈夫。僕の事は良いから先行ってもいいよ」

「はぐれたら大変だろ? ゆっくりでいいから一緒に行こうぜ」


 冬李は僕の手を引きながら階段を上がった。

 不意に手を握られドキッとしてしまった。

 階段を上り終わると秋吾と小春が待って居た。


「やっと来たわね――って、あら? 手を繋いじゃって仲良しね」

「バッ! これはそういう意味じゃねぇって!」


 冬李は咄嗟に繋いでいた手を離した。

 これが普通なのになぜだか胸の奥がチクリとした。

 なんだろうこの気持ちは……。

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