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第3話 女の子として

 ついに夏休みも終わりを迎え、明日からは登校日。

 あの後男に戻ることが出来ず夏休みの残りは身体検査などで潰れてしまった。

 結局戻る方法や原因などは何も分からず僕は女の子のまま高校へ行くことになった。

 僕は今日も冬李の部屋で一緒に遊びながら明日の事を話していた。


「いよいよ明日から学校だな」

「そうだね。でも両親も学校側も信じてくれるなんてビックリだよ」

「意外だったな。まさか小春がそこまでやってくれるとは」


 この一件で小春には随分お世話になった。

 僕の両親への説明や学校への説明等色々してくれたみたい。

 流石、次期生徒会長候補だ。


「僕はそろそろ帰るよ。明日の準備もしないとだし」

「おぉ、それじゃぁ明日いつもの時間に駅前で」

「うんっ」


 僕は夕焼けを見ながら家に帰った。

 初めてこの姿で家に帰った時は大騒ぎだったことを思い出した。

 その時も小春が同伴して事情説明してくれて助かったんだけど本当に大変だった……。


「ただいまー」

「琉夏、ちょっとこっち来てちょうだい」

「なに?」


 母が僕を呼んだので声がしたリビングへ行ってみるとそこには高校の女子制服が置かれていた。


「なにこれ?」

「なにって明日から来ていく制服でしょ?」

「これ着ていくの!?」

「当たり前でしょ。学校もそうして欲しいって言っているし、そもそも男子制服は大きくて着られないでしょ?」

「そうだけど……」

「後で一度着てごらん」

「うん。わかった」


 僕は制服を持って部屋に戻り着替えた。

 高校の制服は夏はワイシャツ、冬はそれにブレザー着るだけなので男女ほぼ同じだ。違いと言ったら男子制服にはネクタイ、女子制服にはリボンだ。そして明確な違いはやっぱりスカートだ。小春はこの事を見越して僕にスカートを強要していたみたいだ。

 着替え終わり母がいつの間にか用意した姿見鏡を見ると当然そこ映るのは女子制服を着た僕だ。


「(明日はこの制服で行くのかぁ……気が重い。お風呂入ってスッキリしよう)」


 僕は制服を脱ぎ元の服に着替えると脱衣所へ向かった。

 この姿でお風呂入るのはまだ少し慣れない。だからかと言って入らないわけにはいかない。

 脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入った。


「(初めての時よりは大分見られるようになったけどまだ慣れないな)」


 母が買ってきたシャンプーで髪を洗った。

 甘い香りが浴室に漂った。


「(しかし髪長いと大変だ。湯船に髪を漬けるのはダメだからタオルで巻かないとだし。女の子は大変だなぁ)」


 お風呂から出た僕は男の時に着ていたTシャツと短パンに着替えた。

 やっぱりこの格好が一番落ち着く。

 翌朝、僕は女子制服姿でいつも冬李と待ち合わせている駅前のベンチで待っていた。


「(うぅ、緊張する……)」


 この格好で電車に乗って学校に行くことを考えるとドキドキする。

 約束の時間になると小走りで冬李がやって来た。


「危うく寝坊するところだった。って琉夏、その格好……」

「これじゃないとダメだって言われて。笑うなら笑ってよ」

「笑わねぇよ。すごく似合っているじゃんか」

「それってバカにしてる?」

「褒めているんだよ。あー、琉夏ちゃん可愛い可愛いって」

「もぅ! バカにしてるよね!?」

「あははは、ごめんって。ほら電車に乗るぞ」


 こんな姿になっても冬李はいつも通りに接してくれる。

 それが今の僕にとっては安心出来る。

 僕たちは電車に乗り高校へ向かった。

 電車内で同じ高校の生徒が乗ってくるたびなんだか僕の事を見ている気がする。

 気のせいかと思ったけど振り返ると慌てて目を逸らす人も居た。

 高校の最寄り駅に到着し電車を降りると偶然同じ電車に乗っていた小春がやって来た。


「琉夏、冬李。おはー」

「おはよう~」

「おーっす」


 僕たちは3人一緒に学校へ向かい歩いた。

 学校までは駅から歩いて行ける距離にある。


「やばい、すごく緊張してきた……」

「何かあったら私たちがフォローするから大丈夫よ。ねっ冬李」

「おぉ、任せろ」

「小春、冬李。ありがとう」


 なんだか緊張が少し和らいだ気がする。

 学校に着き僕たちは教室へ向かった。

 教室に入るなりすぐにざわついた。

 至る所から「あれ誰?」「すげー可愛い」「転入生?」などの声が聞こえる。

 僕は冬李の後ろに隠れつつ自分の席へ向かった。

 席に座るなり机の周りをクラスメイトに囲まれた。


「その席って確か南篠のだよな?」

「もしかして南篠君!?」

「どうなってるんだ?」


 クラスメイトに一気に質問された。まるでスキャンダル現場を抑えられた芸能人みたいな気分だ。

 どこから答えれば良いのか困っていると冬李と小春がやって来た。


「お前ら、琉夏が困っているだろ。ほら散った散った」

「みんなには後で説明するからごめんね」


 冬李と小春が追い払うように退けてくれた。

 ほんとこの2人には頼りになる。

 話していると時間ギリギリに同じクラスの西原秋吾にしはらしゅうごがやって来た。

 秋吾とは高校に入学して知り合い、いつもこの4人で行動している。


「おはよう。その子が言ってた琉夏?」

「うん、僕が琉夏です」

「最初冗談かと思ったけど本当に女の子になっているんだな」


 秋吾はメガネをクイッと上げ整えると僕の事をじっと見た。

 仲の良い友達にじっと見られるのは恥ずかしい。

 すると小春は僕の手首を掴み引っ張った。


「ほら、そろそろ体育館行かないと。3人とも行くよ」


 僕たちは一緒に体育館へ向かった。

 始業式では学校側から僕が女の子になったことを説明された。

 同級生からはチラチラ見られたりして注目を浴び恥ずかしかった。

 無事始業式も終わり後は教室に戻って宿題を提出などして帰るだけ。

 教室へ続く階段を上がっていると後ろから急に小春が僕のお尻を押さえた。


「ひゃっ、なに!?」

「ここの階段急だから上るときはスカート押さえないと見えちゃうのよ」

「そうなんだ。気を付けるよ」

「この後帰るまで時間ある?」

「あるけど?」

「女の子としてのマナーを教えるわ」


 僕は帰るまでに小春から女の子としての知識などを色々教わった。

 気を付けることや必要なものなど。

 すぐに終わるかと思ったけど全然終わらず結局残りはまとめてスマホに送ってくれることになった。

 ようやく解放された僕は冬李が待つ1階の多目的ホールへ向かった。


「冬李お待たせ~。ようやく帰れるよ……女の子って色々大変なんだね」

「お疲れさん。小春と秋吾は?」

「小春は生徒会で秋吾は図書室寄って行くって。ところでこの後どうする?」

「そうだな。ゲーセンにでも行くか?」

「いいねっ! 行くの久々~」

「それじゃ飯食ったら俺の家に集合で」

「OK~」


 僕は一度家に帰り昼食を取った後、冬李と合流をして駅前にあるゲームセンターへ向かった。

 昔はよく来ていたけどここ最近は来ていなく店内も改装され綺麗になって居た。

 店内には色々なゲームの音が響いている。


「懐かしい~。冬李クレーンゲーム得意だったよね。まだやってるの?」

「たまにな。景品取り過ぎてから控えるようにしたんだよ。欲しいのあるなら取ってやるよ」

「ホント!? それじゃぁ……これにする」


 僕は大好きなゲームに登場する猫のマスコットキャラのぬいぐるみを選んだ。

 冬李は「任せろ」と言ってお金を入れボタン操作でクレーンのアームを動かした。

 僕はその横で見ていると冬李は数回であっという間に景品をゲットした。


「ほらよ」

「ありがとう。可愛い~」


 僕は受け取ったぬいぐるみをギュッとした。

 柔らかく毛並みが凄くサラサラしていて気持ち良い。

 その後も冬李は景品を次々ゲットした。

 気が付けば両手には袋一杯の景品があった。


「満足したー!」

「凄い数取ったね。あっ、さっきのぬいぐるみ分のお金払うよ」

「別にいいって。やるのが好きだからな。それより大量にお菓子取ったから帰って食おうぜ」

「うんっ」

「っとその前にちょっとトイレ行ってくるわ」

「分かった。そこのベンチで待ってるね」


 僕は景品の入った袋を持ち近くのベンチに座った。

 スマホで小春から送られてきた女の子のマナーを読んでいると誰かが僕の前に立った。

 冬李かと思いふと顔を上げるとそこには全く知らない男性が立っていた。

 なんだか目つきが怖い。


「君今暇? 良ければ俺と遊ばない?」

「えっ、今は……」

「なにか奢るからさ。取り敢えずそこのカフェにでも行こうぜ」


 男性は僕の腕を掴んだ。振り払おうとしたが力の差があり過ぎて無理だ。

 誰かを呼ぼうと思っても怖くて言葉が出ない。

 手も震え、頭の中が真っ白になりそうだ。

 無理やり引っ張られ立ち上がった時、男性の腕を冬李が掴んだ。


「おいあんた、その子になにすんだ?」

「あ? 誰お前?」

「俺はそいつの彼氏だが?」

「んだよ。男が居るなら言えよな」


 男性は冬李の腕を振り払いブツブツ文句を言いながらその場を立ち去った。

 僕は腰が抜けるかのようにベンチに座った。


「お、おい。大丈夫か?」

「ありがとう。大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたけど」

「でもお前泣いているじゃん」

「えっ?」


 気が付くと僕の頬には涙が垂れていた。

 それに心臓の鼓動が早くなっている気がする。

 怖かったから? いや、それだけではないなにか別の……。

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