「マテオ様はなにか欲しいものがありますか?」
その突然の問いかけが、困ってしまった。
『欲しいもの』……? そんなのあるに決まってる。
けど、これは今はまだ言えない。
「……ない」
そう答えるしかなかった。
そもそも、ソフィア様には沢山のものを貰ってきたんだ。
気付いてないかも知れないが。
それは物ではなく、『思い出』という名の記憶。
今までに感じたことのない温かさをくれた。
ソフィア様だけじゃなく、この屋敷の住人はとても思いやりが溢れている。
その思いやりに俺は何度も救われた。本当に感謝してもしきれないほどに。
そんな日々を過ごすうちにある欲が芽生えた。
それは……。
俺はソフィア様を見ると、目が合った。
キョトンとしているソフィア様を見て、「フフッ」と笑みが零れた。
欲しいものを手に入れるためにこの屋敷を離れるんだ。
まぁ、ソフィア様は最後だから何かしたいとか思って聞いてきたんだろうが。
……そんなことしなくたって、十分すぎるほどにしてもらったよ。
それだと、ソフィア様は納得しないだろうな。
「……ああっ、ありました。ソフィア様の刺繍入りハンカチとか欲しいですね」
俺は咄嗟に閃いたことを口に出す。
「し、刺繍!!? わ、私、刺繍は破滅的なのですが」
「?? 義弟にはプレゼントしたんですよね。義弟は良くて俺はダメ……?」
「えっ!!? い、いや。そういうことでは」
「そういうことじゃないなら何?」
以前、聞いたことがあった。義弟に刺繍入りハンカチをプレゼントした時のエピソード。
それを聞いた時、笑ってしまったが、それと同時に苦手な刺繍を頑張ってプレゼントする。
ひたむきな気持ちがとても好感を持てる。
義弟が『羨ましい』とさえ思ったんだ。
ひたむきな気持ちで俺にも……なんて、思ったこともある。
いや、今も思ってるな。
ソフィア様が一生懸命に作ったものが欲しい。そしていつかは……。
なんて、夢物語だな。
「……いや、やっぱりなんでもない」
「やります!」
ソフィア様が困っているのを見て、訂正しようとしたらソフィア様は勢いよく立ち上がった。
「無理しなくて良いんですよ?」
「いいえ、やります! 待っててください!!」
その決意を止めようとしたら、ソフィア様は「そうと決まれば、アイリスに教えて貰わないと!!」と言って、やる気満々だ。
……あっ。
本当にこの人は……。
「では、楽しみにしてますね」
ニコッと笑えばソフィア様は一瞬固まったがすぐに元の表情に戻り、「任せてください」と言った。
…………可愛い人だ。
その後、オルデン様も会話に混じって雑談を交わした。