「お義父さま」
散歩を終え、屋敷に戻ると丁度、お義父さまとマテオ様が居たので咄嗟に声をかけてしまった。
「ソフィアか。どうしたんだ?」
「あっ、いえ。見かけたので声をかけてしまい」
お義父さまは私の頬を両手で包み込んだ。
「あの??」
「……少し、お茶にしないか。マテオ殿も」
お義父さまは私の頬から両手を放した後、優しく微笑んだ。
……珍しいな。お義父さまからお茶に誘うの。
お義父さまは仕事が忙しくて誘っても一緒にお茶がなかなか出来ない。
だけど、たまに時間を作って私と話をしてくれるんだよね。
お茶に誘われたのは、今回がはじめてなんだけど。
お茶が飲めるほど、時間を作るってことは……きっと、疲れてるんだろうな。
いつもお疲れ様です。
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サロンに着くと、ソファに座る。マテオ様はテーブルを挟んだ向かいのソファに座っている。
丁度侍女がティーセットや菓子を乗せたサイドワゴンを押していた。
お義父さまは立ったままで侍女の様子を伺っているように見える。
オリヴァーさんは扉の外側で待機してもらっていて、シーアさんは私の肩でぐっすりと眠っている。
侍女はお義父さまを見たあと、お辞儀をして急いでサロンを出ていく。
私は疑問に思った。用意してくれるんじゃないのかな。
なんで持ってきただけで行ってしまったんだろう。
お義父さまがサイドワゴンに乗っている小さな箱を空け、中に入っている花びら(?)のようなものをティーポットの中に入れる。
ティーポットを手に取って、カップに注いでいく。
「え……」っと、私は驚きのあまり、その言葉しか出てこなかった。
お義父さまが入れてくれるなんて思わなかったし、そういうのは侍女にまかせているというイメージが強かったから、意外な一面を見て親しみを感じてしまった。
もちろん、お義父さまは仕事とプライベートを分けられてる方だと思ってるし、とても気さくな方なのは知っている。
……だけど。
なんだか新鮮なんだよね。また新しいお義父さまの一面を知れて少し嬉しい。
「あの、なにを入れたんですか?」
マテオ様がお義父さまに聞く。
「ん? セリシアの花だ」
セリシアの花……。確か、少しだけ魔力が宿っている珍しい花なんだよね。
疲れがよく取れるって聞いたことがある。
珍しいと言われるのは、セシリアの花だけが魔力があるからだ。
通常、他の花には魔力は宿らない。
かなりの人気ですぐに売り切れになるというのも聞いてる。
セシリアの花に頼りたいほど疲れが溜まっているんだな。
「あ、あの。お義父さま、お疲れでしょうから、あとは私がやります。座っていてください」
疲れている人に、しかも年上の人にそんなことをさせていたということに気付いた私は咄嗟に立ち上がったが、お義父さまは首を横に振った。
「いや、いいんだよ」
「……ですが」
「疲れているのは、ソフィアもだろう? 顔色が良くない」
お義父さまは紅茶を注いだカップを私の前のテーブルに置いた。
同様に、マテオ様の前のテーブルにも置く。
……ああ、情けない。疲れてる感じを顔に出してたんだ。
ノア先生に顔に出てるって言われたこともあったし。ちゃんと意識して直さないといけないな。
多分、クセになってる。
「いただきます」
私は、紅茶を一口飲んだ。
ほんのり桜のような香りと甘くまろやかな味が口の中に広がっていく。
なんだが疲労感も無くなったような気さえしてくる。
だけど、なんだか懐かしい……。
私はこの味を知っている。
それは以前、具合が悪い時に母が飲ませてくれたのに似ている。
母って、私がデメトリアス家の養子になる前の親ね。
前世の頃の親ではないからね。
「……優しい……味がしますね」
あんまり記憶にない親。だけど、大好きだったんだなって思う。
だって、こんなにも暖かくて優しい気持ちになるんだもん。
だからこそ、考えたくなかった。なにか、取り返しのつかないことを思い返しそうでとても怖いから。
思い出さないといけない日はきっと来ると思う。でも、今の私では全ての記憶を思い出したら、受け入れられるのだろうか?
「ソフィア様?」
マテオ様の声に我に返った。
「……なんでもありません」
……大丈夫。
そう言い聞かせる。じゃないと、心が闇に呑まれそうだったから。
寂しくない。だって、私はこんなに幸せなんだもん。
「マテオ様はなにか欲しいものはありますか?」
涙が出そうになった。それを誤魔化すように話をふった。
うん。大丈夫だ。
声も震えてない。
きっと気付いてない。