ミットライト王国の執務室。
父上に頼まれた書類に目を通し終わった俺は椅子の背もたれに寄りかかるとキースが「お疲れ様です」と、紅茶を用意している。
「…………」
「どうなんですか?」
「どうって?」
俺は深く息を吐いた後、休憩しようと椅子から立ち上がる。
ソファに腰下ろすとタイミングを合わせたように紅茶が入ったティーカップをテーブルに置いた。
「
紅茶を一口飲んだら、キースが
ソフィア嬢は、女避けとして利用するつもりだった。
だけど、気になることが一つ。それは俺が良く見る夢のこと。
正夢になっているかのように現実でも似たようなことが起こるが、似てるだけで夢で見たまんまとは違う。
夢の中のソフィア嬢と現実のソフィア嬢の性格が全く違うということ。
夢で片付ければいいだけだが、どうも引っかかる。
出来事が夢で見たのと同じなんだから。
単なる偶然か? そう思うが、偶然で済ますにはあまりにも似過ぎている。
おかげで寝不足気味だ。
……それに
「ソフィア嬢は関係ないだろ」
「そうですかねぇ?」
「そうだ。それに、あの件はもうすぐ片付く」
「本当ですかぁ!? ですが、雨がなかなか降らなくて食物が育たないという問題をどうやって解決したんですかぁ?」
「……奇跡を起こすと噂されている少年の力を借りることにした」
「聞いたことあります。確か、男爵子息で治癒魔法を使えるとか」
「ああ」
「瞳も深紅だとか。……まるでおとぎ話に出てくる深紅の魔術士みたいですね」
「そうだな」
「なにか気になることでも?」
「いや」
深紅の魔術士か。本当にその少年がそうなのか?
いや、夢で見ただけだ。
夢の中だと、深紅の魔術士は女性だった。それで俺とその子が恋仲になる。嫉妬したソフィア嬢が危害を加えようとしたので俺は腰にかけてある剣で斬る。
考えれば考えるほど頭が痛くなってきた。
正夢とは限らないじゃないか。ソフィア嬢の性格だって違うんだから。
「少し、気を張りすぎなのでは? 横になってはどうですか?」
「いや、大丈夫だ」
仮眠をとってもあの夢を見てしまう。
夢の中とはいえ、暴漢すぎるソフィア嬢を見るのは心苦しい。
この感情はなんなのだろう?
夢で見るのと現実のソフィア嬢彼女が違うから気になるのか?
それともソフィア嬢の中に封印されている【闇】属性を恐れて気にしてるのか?
だったら、この独占欲に似た感情はどう説明する?
これではまるで……。
俺は首を大きく横に振った。
それは無い。有り得ないと自分に言い聞かせて。
「あっ、そういえば、セレスタン子爵夫妻がマテオ様を養子に迎え入れるそうですね」
「ああ、そうらしいな」
セレスタン子爵夫妻は、子宝に恵まれなかった。
その理由はわかってはいないが、本人たちは子供が欲しいという思いで、マテオ殿を養子にしようと決意したのだろう。
ソフィア嬢に対し、トゲトゲしかったマテオ殿が今では柔らかくなってるとオリヴァーに聞いた時、耳を疑った。
心に変化が起こる何かがあったのかも知れないが……、とても複雑な気持ちになった。
「……はぁ」
思わずため息を零したらキースは俺の心を読んだかのように言う。
「複雑ですね」
「なんのこと?」
俺は冷静を装った。
キースはニコッと微笑んで「なんでもありません」と、言う。
内心では焦っていたが、こんなことで動揺するわけにはいかない。
全く、この感情はなんなんだ。考えれば考えるほどわからなくなる。