「……か、確認なのですが」
シーアさんが目を覚まして、ソファにくつろいでから数分後。
私の座っているソファの後ろに立っているオリヴァーさんが様子を伺いながらも口を開いた。
「『聖なる乙女』で良いんですよね? 姿が光だけしか見えてなくて」
テーブルを挟んで向かい合わせに座っているシーアさんはクスッと笑った。
「なんじゃ。光だけとは、人生を損しとるぞ。ワシの姿が見えんとは。お主、それでも竜騎士なのか?」
「シーアさん!?」
シーアさんはわ・ざ・と・挑発的な言葉を発する。
「……それは俺の実力不足です」
オリヴァーさんは怒るというよりも若干、落ち込み気味だ。
なんなんだろう、この空気。
シーアさんも何もトゲのある言い方しなくても……。
オリヴァーさんもストレートな指摘に落ち込んでるように見えるし。
「いじめるするのはこのぐらいにしとくかのぉ。大事なことを忘れとった、ワシは思念体に近いんじゃ。本体は別の場所に居る。そんな中、契約しようとすれば具合も悪くなる」
「別……?」
シーアさんは足組みしながらいたずらっ子のような笑みを向けた。
私は『別の場所』という言葉に首を傾げた。
「聖・域・じゃよ。お主がワシの魔力を消した時、ワシに触れたじゃろ。その時に肉体から離れ、精神だけが来てしまった。ということじゃ」
「それって……?」
「無意識で無の属性を使ったってことじゃ。まぁ、本体のところにはいつでも帰れるが……」
シーアさんは私を指さした。
「また、このようなことが起こってしまったら敵わんからのぉ。ワシと契約を結び、魔力を安定させようと思ったんじゃが……」
「俺は反対です。契約は危険です」
「ワシを誰だと思っとる? 精霊じゃが、ドラゴンでもあるぞ」
「手のひらサイズだったと聞いています」
「思念体じゃからじゃよ。本体はもっと大きいわ。普段は人型じゃがな」
「……それに、世界樹が存在するだなんて」
「今は、おとぎ話のようになっとるようじゃが、世界樹は存在しておるぞ。そもそも世界樹が存在しなければ魔法は使えん」
「世界樹は悪夢を吸収し、魔力を排出する。ワシは、悪夢を吸収するための繋ぎみたいなもんじゃな。悪夢を吸収された者は夢を見たという記憶が無くなるがのぉ」
悪夢。……もしかして、私がシーアさんと会っていた記憶が無かったのって夢を吸収されていたから?
それなら私の悪夢は……?
と、思うけど、考えてみれば、悪夢を見るのは私だけじゃないし、多くの人が見てるんだろうな。
多分、ランダムに吸収しに行ってるのかも?
私はオリヴァーさんを見ると、難しい顔をしていた。
「大体のことは何となくわかりましたが……、ソフィア様を危険なことには……」
「お主もわかっとるんじゃないのか? このままだと一生苦しむことになるぞ」
「…………、なら、どうしろと」
「ワシがなんとかしよう。少々荒っぽいが特訓に付き合うぞ」
契約が出来ないなら、特訓しか方法はないと思ってのことだろう。
オリヴァーさんが心配してくれてるけど、私は自分の問題を解決させたい。
守られる存在じゃなく、守る存在になりたいから。
強くなりたいし、自分の未来を知っているからこそ、頑張れる。
大丈夫……、フラグを折ってやる。
私はそう決意した。