せっかく希望が見えてきたのに。
まさかの魔法陣に酔うだなんて、そんなの聞いてない。
いや、違うね。『聞いてない』のではなく、疑問に思い聞いてみないといけなかったんだ。
それは私が悪い。シーアさんは悪くない。
自分を棚に上げて相手を責めるなんて、情けなくて泣けてくる。
シーアさんはベッドに横になって熟睡している。横になった瞬間、規則正しい寝息を立てるんだもん。
……ビックリよ。
気持ち良さそうに眠っているシーアさんを起こすわけにはいかない。
その間にオリヴァーさんのところに行こう。
私の寝室の扉の外にいるんだろうけど。
扉をゆっくりと開けると、オリヴァーさんと目が合う。
オリヴァーさんはニコッと微笑んだ。
「どうしました?」
「その……どこから話していいのか。とりあえず、寝室に入ってください」
「わかりました」
寝室に入ったオリヴァーさんは扉を閉め、私のベッドを見つめた。
「これは……、精霊? いや、姿が見えない」
「本人曰く、世界樹の精霊だと」
「見えるのですか!? 普通の人は裸眼では見えないはず……いや、俺はギリギリ光が見えるだけで姿が見えない。しかも、世界樹の精霊? 有り得ない」
竜騎士だったらシーアさんの姿が見えるだろうと思ったんだけど、一番驚いてたのが『世界樹の精霊』だったのに疑問を持った。
「なにが有り得ないのでしょう?」
「世界樹は存在しません。世界樹の精霊なんて聞いたことがない」
「世界樹の精霊は『聖なる乙女』なんです」
「聖なる乙女!? その、寝てるんですか? それとも起きていて、横になっているんですか?」
「寝ています。あの、私と契約をしようとしたら魔法陣に酔ったみたいで」
「酔う? 契約?? 『聖なる乙女』は確かに精霊みたいですね」
「どういうことでしょう?」
「精霊は、ドラゴンと違って不安定な存在なんです」
不安定?
でもおかしい。シーアさんはドラゴンになっていた。それが本当の姿なのだと。
「でも、シー……『聖なる乙女』は、ドラゴンになってました。手のひらサイズですが」
「……手のひらサイズ? なるほど。これは俺の憶測ですが、本体は別の場所に居るのかもしれません。ドラゴンが手のひらサイズなのは有り得ないんです。見たことも聞いたこともない。俺が『聖なる乙女』がギリギリ光って見えるぐらいなので」
「別の場所? 私、夢の中から引っ張り出しちゃったんです」
「夢、ですか? 詳しいことは
オリヴァーさんは視線をベッドから私に移した。
「契約はしないでください。命に関わります」
「えっ!?」
「なんのための護衛なのかわかりません。無茶はしないでください」
契約って命に関わることだったの!?
だけど、私はどうしても契約をしなくては。
私の今後の人生に大きな影響があると思うから。
「私、契約を結びたいんです。自分のためにも」
「ソフィア様……」
目を反らさず、オリヴァーさんを真っ直ぐに見て言い放す。
オリヴァーさんは深いため息をした。
私の両肩を掴む。
「俺は、殿下からソフィア様を守れと命令されています。そんな危ないことをさせると思いますか?」
「で、でも!!」
どうしよう。説得しないと。
そう思っても、納得のいく言葉が思いつかない。
命に関わるって聞くと、死亡フラグに近付いてるんだと思う。
だけど、私はシーアさんを信じてる。
絶対に死んだりしないってそう思う。
「うるさいのぉ。オチオチ寝てられんわい」
その声は、私とオリヴァーさんではない。
ベッドの方から声がする。私はその声の主をよく知っている。
オリヴァーさんも声が聞こえたのか、驚いたようにベッドの方を向いている。
ベッドに寝ていたはずのシーアさんは上半身を起こしていた。
シーアさんはベッドから降りようとした。
が、
「ぎもぢわるい……」
その場にしゃがみこんで口を押さえた。
本調子じゃないのに、動くから。
シーアさんのところに歩み寄ろうとしたらノック音が聞こえた。
「ソフィア様」
その声は、マテオ様だった。