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シナリオが変わってる?

 おかしい。ゲームではこんなシーンは無かったはず。


『聖なる乙女』はヒロインに力を貸すシーンはある。

 だけど、悪役令嬢に力を貸し、さらに契約を進めるって……。


 シナリオが変わってる?

 不思議なことに、特に意味のある行動はとっていない。


 ……でも、契約してくれるのは有難い。


 素直に嬉しい。


 シーアさんは気まぐれな性格だ。気が変わらないうちに契約を了承した。


「契約はどうすればいいのでしょうか?」


 シーアさんに声をかけると、立ち上がる。


 私の方に歩み寄るとシーアさん自分の手の甲を指差した。


「傷をつけるんじゃ。小さくのぉ」


 小さく。


 アニメやゲームでは、簡単に傷つけるところを見たことあるけど……。


 実際にやるってなったら少しだけ抵抗がある。

 さっきまで自害しようとしてたけども。


 私は大きく深呼吸した。


 大丈夫。勇気を持って。


 その言葉を何回も繰り返す。こんなチャンス、二度とないと思ったら後戻りなんて出来ない。


 やるしかないんだ。


 テーブルに置いてある氷の槍を持つ。


 その手は震えていた。


 落ち着け、落ち着くんだ。


 槍の先の尖った刃を自分の手の甲に当て、グッと力を入れる。


 氷で出来てるだけあって冷たい。チクリと痛みが走った。

 かすり傷程度の軽めな傷口を作って槍を手の甲から放す。


 その傷口からは血が下に垂れ、スカートに血がつきそうになる。


 今、私は座っているから垂れたらスカートについてしまう。血を落とすのはかなり大変なのを前世でよく知っている。

 言いづらいけど、……女の子の日で、ね。


 血を見た侍女たちは大慌てになりそうだけど。


 私は慌てて血が垂れないように傷口を手で押さえた。


「うむ。立つんじゃ。ここだと危ない」

「はい」



 立ち上がり、ソファから少し離れたところでシーアさんは私の両手を胸のところで握る。


 ……お互いの指が交互に絡み合うように。


 シーアさんはゆっくりと目を閉じる。


「……天に交えし清らかな乙女よ。我は天の道標となり大地を育む者」


 シーアさんが呪文も言い始める。


 すると、血が自分の意思があるかのように円を描き始めた。


 下からもいつの間にか魔法陣が現れ、黄色い光が魔法陣の中にいるシーアさんと私を優しい風と共に包み込む。


「ーー我は世界樹の精にして、神聖なる者なり……」


 呪文が途絶えたのでどうしたのだろうとシーアさんを見ると、血の気が引いていて顔色が悪かった。


 黄色い光は徐々に弱くなり、下の魔法陣も消えてしまう。


「……シーア、さん?」


 シーアさんは私から手を放し、口を押さえ、その場にしゃがみこんだ。


「…………酔った」

「へ!?」


 契約って酔うものだったの!?

 乗り物か何か!!?


「久しぶりじゃからすっかり忘れとった。……ワシは契約する魔法陣に酔うんじゃ」


 まさかの意外な弱点。


 どうしよう。


 とりあえず、横にさせて、それからオリヴァーさんに相談してみる?


 精霊に詳しそうなのは彼しか思いつかない。


「契約なんて嫌いじゃ。気持ち悪くて仕方ない」


 ブツブツと文句を言っている。

 あっ、そういえば……。


「シーアさん、すぐに酔いが覚める方法がありますよ!」


 酔いを解すツボがあったはず!!


 そう、それは首の後ろ、うなじを強く押すのよ!


 漫画で読んだもの。


「首の後ろを強く押すんです!」

「ワシを殺す気か!?」


 自信満々に答えると、シーアさんの顔色がさらに青色になった。


「大丈夫です! 私を信じてください」

「そんな頼りない『信じて』ははじめて聞いたぞ。首は止めるんじゃ」

「……そんな全力で否定しなくても」


 ちょっとショック。


「……横になったら落ち着く。だから、なにもするな」

「はい……」


『なにもするな』と、強調されて言われてしまい、なにも言えなくなってしまった。


 首の後ろ、ダメだったの……かな?





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