風太に
「お、お前は……、もうちょっと
「な……ッ、んなことねーよ!」
「そんなことある。お前、大会になると、ああいう
「あぁ……?」
一星の言葉に、風太はすぐに反応した。おかわりした白飯をあっという間にたいらげた彼は、
「ビビってるだぁ……?」
「違うのかよ」
「あぁ、もう……。まーた始まっちゃった……」
「おーい、ふたりとも。そこら辺にしとけよー」
太一とOBに
「おれはビビってねえ!」
「だったら、なんで大会でいつも失敗するんだよ」
照れ隠しに、つい、ケンカ腰な言い方になってしまったが、一星はなにも嘘を言っているわけではなかった。風太は面を得意としていて、たしかに彼の技の中でも、それは特にずば抜けた威力がある。だが、彼は面だけでなく、胴も上手い。特に、相手に対して構え、互いに攻め合う状態から、腹を右上から左下に打ち抜く、
ただし、風太は公式試合になると、なぜか
一星もそれには気付いてはいたものの、今日の試合で、彼が調子よく
「しょうがねえだろが! 公式試合だと、さすがのおれだってちょっと慎重になるんだよ!」
「慎重になって、技が打てなくなってんなら、それはビビってるってことだろ。わかってんなら対策をしろよ」
「うるっせえ! おれはな、お前みてえに年がら年中、精密機械じゃいられね――……」
「お前ら! そんなにエネルギーありあまってんなら、夜中じゅう稽古するか!」
そこまで、ずっと静観していた烏丸が怒鳴り、食堂がしーんと静まり返る。同時に、太一やほかの部員から、冷たい視線を送られた。ひとまず一星は、風太と競い合うように、残っていた食事をたいらげる。だが、ほどなくして烏丸が食堂を出ていくと、それを待っていたかのように風太が言った。
「おめえのせいで怒られただろーが、アホんだら」
「お前のせいだ、ばあか」
「んだと、この……っ!」
「ふたりともー……。本当にいいかげんにしようか?」
やや
「俺は……、絶対にあなたには負けませんから」
すると、白河は無言のまま、目を細めた。
***
その翌日も、初日と同じように、試合稽古は行われた。一星は白河に勝つために、あらゆる策を練って戦ったが、やはり、ひと筋縄ではいかない。白河は想像以上に
「……あれ、風太は?」
風呂と風呂掃除が済んで、最後に部屋に戻った一星は、自分の布団を整えながら、ふと、異変に気付いた。部屋に風太がいないのだ。ついでに言えば、白河もいない。隣の布団で、すでに寝転がっている太一は、スマホを眺めながら答える。
「そういやぁ……、いないね。さっきまで、その辺でごろごろしてたけどなー」
「そうか……」
ふたりが
「風太先輩なら、中庭の自販機まで、飲み物買いに行ってますよ。白河先輩と」
「え……?」
それを聞いて、途端に
くそ……ッ。やられた!
一星は布団を放り投げて、急ぎ合宿所を出た。そのまま、中庭へ向かう。とうに歩き慣れた道だが、今は足下もはっきり見えないほどに真っ暗闇だ。校内には、場所によって、外灯がいくつか設置されているはずだが、中庭まで続く道には、ほとんど灯りがない。
一星は、ポケットからスマホを取り出して、ライトを点けて歩き出す。見慣れた校舎は人の気配がなく、不気味な廃墟のようにも見える。しかし、誰もいない真夜中の学校なんかより、風太を狙う白河の方がよほど怖い。
やがて、自販機が
「あ……ッ!」
ふたりのシルエットが見えた瞬間、思わず、一星は駆け出した。風太は自販機の前に立ち、白河は風太の背後から、馴れ馴れしく抱きついている。なにか話しているようだが、その距離があまりに近い。不意打ちで口づけられても、おかしくないくらいだ。