一星がどんなに恋心を
しかし、一星はそれでも構わなかった。たとえ、風太への想いが叶わなくても、彼との関係が、恋人やパートナーという形になれないとしても、家族として、そばにいられるだけで、十分幸せだった。
一星は、風太には誰よりも幸せになってほしいと思っている。だからこそ、もしも彼に好きな人ができたなら、その恋に出しゃばったり、邪魔をするつもりはない。ただし――。その相手が一星と同じ男で、あの白河だとすれば、話は違ってくる。
白河先輩に、風太は渡せない……。渡したくない……!
なにも、白河が悪人だとは思わない。彼は頭がいいし、人当たりがいいので、友人も多くいるようだ。見た目もよく、在校していた頃には、下級生には特に人気があった。
だが、ああ見えて、彼には二面性があるのだ。時に強引なところがあるし、言葉
そんな曲がった根性で、風太を幸せになんかできるもんか。白河先輩は、風太には絶対、ふさわしくない……!
だが、心配だ。風太は白河をとても
「……だあぁッ、クソがぁッ!」
「なんだよ! 急に……、びっくりすんなぁ……」
「あ……」
思わず立ち上がって、声を上げてしまった。白河に甘い言葉でそそのかされて、あれよあれよという間にベッドに押し倒される風太を、想像してしまったのだ。一星は静かに座り直すと、水筒のお茶を飲み、ひとまず気持ちを落ち着かせた。
「悪い……。ちょっと虫がな、
「虫? 虫なんかいたかぁ……?」
風太は首を
「なんだよ?」
「あ……」
「飲みてえのか? ほれ」
「え……ッ」
ほれ、と飲みかけのジュースを手渡され、途端に指先が
「い、いいのか……」
「全部じゃねーぞ! ちょっとだけだかんな」
「あぁ……」
「欲しくなきゃ、返せ」
「いやッ、じゃあ……、ちょっとだけ、もらっとく……」
「あいよ、どーぞ」
一星は、紙パックのジュースに刺さったストローの飲み口をじっと見つめ、ごくりと
ここを
甘いな……。
ドキドキしながら飲んだジュースは、甘いメロンの香りと、牛乳の味がした。一星はストローの飲み口ををそっと放し、ジュースを風太に返す。
「サンキュ……」
「うめーだろー」
「あぁ、うん……。お前、ほんとにこういう……、甘いの好きだよな」
「好きぃー。だけど、なんでもいいわけじゃねーぞ。おれ、このシリーズは断然、メロン派なんだよ。いちごもあるけど、メロンのほうが甘いじゃん?」
ストローを
甘党なとこも、かわいいよな……。次の弁当には、なんか甘いもん、入れてやろうかな……。
一星は弁当を片付けながら、そんなことを思い、頬を
「おっ、パイセンから返信きた!」
風太の
「……まだメッセやってんのかよ」
「あぁ、ここんとこずーっと続いてんだ」
「へえ……」
真のライバルは強敵だ。彼は年上で、文武両道タイプのイケメンで、人気者で、剣道も強かった。今、部内試合で一位を保持する一星も、彼に勝ったことはたったの一度しかない。今、考えてみても、一星が白河より勝っているところなんて、ひとつも見つからなかった。だが、どんなに手強いライバルだとしても、一星は引き下がるわけにはいかない。なにがなんでも、風太を白河に奪われるのだけは、我慢できないのだ。
あんな人に渡すくらいなら……、風太は俺が幸せにする……!
一星は、隣で大あくびをする風太を見つめながら、心の中でそう決意をしていた。