「すげえ、かっけえ車っすね!」
白河の車に乗り、風太ははしゃいでいた。真っ白いセダンの外観は、まるでロケットミサイルのように洗練されたフォルム。セダンの助手席から見る運転席は、昔、よく見たアニメに出てくる、戦闘機のコックピットのようだった。
「これ、先輩の車なんすか!」
「まさか。これは今日、父に断って拝借したんだよ。大学を卒業するまでには、自分のを買おうと思ってるけどね」
「へえ……」
やっぱ、白河先輩って、かっけえ……!
白河に会ったのは、卒業式の日、以来だ。最後にまともな会話をしたのは、受験シーズンに入る前の、秋のことだった。もうあれから、半年が経っている。こんなふうにふたりで会うのは、本当に久しぶりで、風太は彼とのやり取りに懐かしさを覚えながら、たった半年で、ずいぶんと大人びた白河の変化を感じてもいた。
「自分の車を買ったら、そのうち風太と旅行でも行きたいなー」
ひとり言のように、白河は言う。風太はすぐに頷いた。そんな楽しそうな企画は、すぐにでも実行したいくらいだった。
「いいっすね、旅行! 温泉とか行きたいっす、おれ!」
「温泉かぁ、楽しそうだね。――あ、そうだ。それで、早速聞きたいんだけどさぁ」
「はい!」
「風太が一星んちに住んでるって、本当なの?」
「は――……」
白河の
もしかしたら、彼は風太を心配してくれているのかもしれない。風太と一星が、この高校へ入学してきた頃から、ずっと犬猿の仲であることを、白河もよく知っているはずだ。
「ほんとです……。もう、それがね、新学期早々、大変だったんすよ……」
「すっかりくたびれてるね。よかったら話、聞かせてよ」
笑みを含んだ白河の言葉に、風太は頷く。そうして、この春、本当に起こった信じられない雅の再婚と、源家での同居のことを話した。
白河の車は海沿いの道を走り、やがて、
「……ってなわけですよ。とんでもない話でしょ?」
「なるほどね。でも、にぎやかで楽しそうじゃないか。一星とも、なんだかんだ仲良くやってるんだろ」
「まぁ……、思ってたよりは。でも、あいつがわけわかんねーのはあいかわらずですよ。今日だって、おれが白河先輩とマックスバーガー行くって言ったら、なんか突然、不機嫌になるし。まさか、お前、先輩に勉強教えてもらおうと思ってんじゃねーだろうなって、こーんな顔して言ってくるんですから」
風太はそう言って、指先で目尻を吊り上げて見せてから、ふん、と鼻を鳴らす。白河はけらけら笑ったが、あれもこれも、風太にとっては笑いごとでは済まない。
「笑いごとじゃないっすから!」
「まぁ、まぁ。ひとまず、食べなよ」
「……はい。いただきます!」
白河に断るようにそう言った。すると、白河は柔らかな
「どうぞ、召し上がれ。じゃあ、一星とは、またケンカしちゃったんだ?」
「いや、ケンカにまではなってないんすけど……。とにかく、アイツがわけわかんねーのは確かです」
風太はポテトフライをかじりながら、そう言って口を尖らせる。優しかったり、
「ふうん……。それで、風太はそういう一星のこと、どう思ってるの?」
「え?」
「嫌い? それとも……、好き?」
そう
「嫌いってわけでは、ない……っすかね」
そう答えると、白河は目を丸くする。
「へえ。……風太、変わったね。去年ならきっと『大嫌いです』って答えてたような気がするけど?」
「い、いや、あの……っ、アイツは、ほんとにわけわかんねーヤツではあるんです。ただ、アイツの場合は、そこにちゃんと理由があるっていうか、気まぐれで怒ったりしてるわけじゃないんすよ。なんか、おれの思いもしねえとこで、無駄にいろんなこと考えてるような感じで、いつも誰かのこと
そう言いかけて、また。海辺で話したときの、一星の横顔を思い出す。あんな顔をして、言葉を選びながら、太郎のことを一生懸命に話していた彼だ。たいした理由もなく、突然、不機嫌になるのはおかしい。彼なりに、なにか正当な理由があるはずなのだ。
「なるほどねえ。つまり、風太はすっかり一星に
白河はそう言って、くく、と笑みをこぼす。途端に、風太はかぶりを振った。
「いや……っ、
「あぁ、
「はあ……」
説明されたところで、風太にはイマイチその感覚がつかめなかった。もぐもぐとポテトフライを食べながら、首を
「じゃあ、こう言えばわかりやすいかな。風太は、前よりも一星のことが好きそうだって」
「あ……」
好き――。という言葉に、
「まぁ……、それは、そうかもっす。でも、アイツがおれのライバルなのは、変わんないし……、友だちごっこする気なんか――」
「それはきっと、一星も同じなんじゃないかな。オレは、去年までのアイツしか見てないけど、どう見ても、風太と友だちになりたいなんて、アイツは思ってなさそうだったからね」
「……そ、そうっすよね」
へらへらと笑って返したが、なぜか、少し複雑な気分になる。あの一星が、風太に対して友だちになりたいなんて、思っているはずがない。仲良くしたいと思っているのも、そもそも違和感がある。はじめて会ったときに、彼に無視されたことが、その証だ。そんなことは、今まで当たり前に思っていたことだった。しかし今、一星に嫌われている、と思うと、風太はなんだか無性に寂しくなって、白河の発言を否定したくもなった。
なんか、よくわかんねーけど……。モヤモヤする……。