風太が源家で同居することになって、早二週間。風太の日常は変わった。朝はいつもより一時間も早く起こされ、ライバルとダイニングテーブルで向かい合い、朝食をとる。
朝食はいつも、ライバルの手作りだ。トーストが二枚と半熟の目玉焼き。フライパンで
なんの文句もない、十分過ぎるほどの朝食を済ませたあと、風太はライバルとともに支度をして、家を出る。だいたい、ここまでで六時十五分。そこから学校へは、十分もあれば着いてしまう。はじめは慣れなかったが、三日もすればそれが普通になってしまって、二週間経った今は、すでに日常と化している。慣れとは、恐ろしいものだ。
「風太、一星とうまくいってんだね。よかったじゃん」
「おい、おれとアイツを付き合ってるみてえに言うんじゃねえよ。……ったく」
太一にからかわれるのは慣れているが、一星とのことになると、へらへら笑ってもいられない。相手が女子ならともかく、相手はあの一星だ。ただ、同居生活は自分でも驚くほど、うまくいっていた。
太郎は優しく、まさに頼りがいがある父の
「なんだかんだ言って、君たちのケンカは減ってるわけだし、いい傾向だね。もうすぐゴールデンウィークだし、合宿もあるし。ここにきて、やっとうちのチームも整う日が来たってことだ」
「整う、ねえー……」
「だって、たぶん新チームになってから、今が一番、雰囲気いいよ。オレたち」
「あー……。そういや、アイツの好きな子って、結局のとこ、誰だったんだろうな……」
「あれ、風太はそっちが気になるんだ?」
「べっつにー……」
あいかわらず、大勢の女子に囲まれて休み時間を過ごす一星を眺めながら、そんな会話をしていた時だ。不意に、ポケットの中でスマホが
「うわ、やべえっ、白河先輩だ! メッセ返すの完全に忘れてた……!」
「あちゃー……。先輩、怒って電話かけてきたんじゃないの?」
「そうかも……」
風太はドキドキしながら、ベランダに出て、通話ボタンを押す。だが、次の瞬間、耳に飛び込んできたのは、白河のゴキゲンな声だった。
『風太、久しぶり!』
「先輩っ、すいません! おれ、すっかりメッセ返すの忘れてて……」
『そうだよー、オレ、すげー待ってたんだからな』
「ほんと、すいませんっ!」
風太は通話をしながら、ぺこぺこと頭を下げる。だが、白河は怒っている様子はない。むしろ、彼の声は、いつになく軽快で、楽しそうだった。
『ねぇ、風太。今日の夜、部活終わったら、メシでも行かない?』
「え……」
『マックスバーガーの超マックスのセット、
「うえぇっ、ほんとっすか!」
思わず興奮し、声を上げた。マックスバーガーの超マックスは、百パーセント牛肉ミンチの巨大パティが三つと、チーズがふんだんに入った、とにかく
『うん、ほんと。車で迎えに行くよ』
「すげえっ! 車ってことは、先輩、もう免許取ったんすね!」
『うん。連絡くれたら、三十分くらいで風太んちまで行けると思うんだ』
先輩、あいかわらず、超かっけーな……!
「了解っす! あ、でも――……」
白河が迎えに来ると言っているのは、風太が二週間前まで住んでいた、アパートのことだ。そういえば、まだ白河には源家との同居の話も、太郎と雅の再婚話もしていなかった。
白河先輩に、メッセ返すの忘れてたくらいだもんな……。そりゃあ、話してるわけねーわ。
『おーい、風太?』
急に黙り込んだ風太を呼ぶ声が、スマホから聞こえてくる。風太はハッと我に返った。
「あぁ、すいません、先輩。おれ……、実は引っ越したんすよ。今はあのアパート、もう住んでないんす」
『へえ、そうだったんだ。引っ越したのか……。もしかして、それでバタバタしてたとか?』
「まぁ、そんなとこっすね……」
『新居はどの辺? まさか、高校までは変わってないだろ?』
「それは、はい……。今の家は、その、うちの――西御門校の、すぐ近くなんです。実は……、親が、同級生の親と再婚することになって……。今、そいつんちに同居してるんですよ」
『え……?』
「ビビりますよね。おれも急に知らされたんすけど、なんか、気付いたら親同士がそういうことになってたっぽくて……。先輩は、一星のこと覚えてますよね。源一星……」
『一星……』
「おれ、今、一星んちに住んでるんです」
そう言ったあと、どういうわけか、白河は黙ってしまった。それまで、軽快に
「先輩……? 大丈夫っすか?」
『あぁ、ごめん……。ちょっと驚いただけ』
「そうっすよね……」
無理もない、と風太も笑う。今でさえ、風太もこの事態を人に対して冷静に説明できるようになったが、はじめは混乱して、どんなに説明されても、事実を受け止めることも難しかった。
『……じゃあ、今日は報告会だね。オレも、風太に報告したいことあったから、ちょうどよかったよ。部活終わったら、校門まで迎えに行くから』
「はい、待ってます……!」
風太は通話を切り、思わずガッツポーズをする。今夜は久しぶりに、白河と会えるのだ。しかも、正月に一度だけの
「楽しみだなー。あっ、そうだ……、勉強も今度、教えてもらえないか聞いてみないと――……」
「おい、風太」
ベランダから戻ろうとした風太の目の前に、いつの間にか、一星が立っていた。どうしたことか、彼はひどく不機嫌そうな顔で、風太を
「なんだよ。なんか用か」
「今、誰と電話してた」
「今……? 白河先輩だけど……」
その名前を口にした途端、一星の