一星と競うように夕飯を食べながら、風太は、ふと、そんなことを思った。やがて、大皿に盛られた料理が、次々に
「一星くん、私がやるからいいのに……」
「いえ、引っ越し作業と、晩ごはんまで用意してもらったんですから。皿洗いくらいはやらせてください」
「……ありがとう。じゃあ、お任せしちゃおうかなー」
こうなると、風太も手伝わないわけにはいかなくなる。なにしろ、今日は風太と雅の引っ越しだったのだから。
「おれもやる……」
そう言って、風太はひとまず、一星の隣に立ってみる。だが、勝手のわからない台所では、なにをしたらいいかわからず、手持ち無沙汰だ。あちこちを探索するようにきょろきょろしていると、一星は風太に台ふきんを手渡した。
「風太、俺はここで、食洗器に入れてくから。残りの皿、ここまで運んで。あと、テーブルこれで拭いといてくれるか」
「へーい」
言われるまま、風太は
母ちゃん、すげー幸せそうだ……。
風太はテーブルも拭き終わってしまって、ぼんやりと
「風太。後片付けが終わったら、腹ごなしに、少し歩かないか」
「え……、歩くって、どこに」
「ちょっと、海まで行こう」
***
風太は、一星の少しあとを追うようにして、海岸までの道を歩いた。歩いた、といっても、海岸までは本当に徒歩十分くらいだった。すぐにどこからか波の音が聞こえてきて、視界が一気に開き、どこまでも続く真っ暗闇が現れる。しかし、どうもこうして、無言で歩くのもなんとなく気まずくなり、風太は話題を探した。
「お、お前んちって、海岸まで、ほんとに近いのな」
海岸沿いを歩きながら、一星の背中にそう投げかける。すると、一星が立ち止まり、風太に振り返った。彼は無言でじっと見つめて言う。
「もう、自分ちだろ」
「あ、そっか」
無理もないよな、と言わんばかりに、肩をすくめ、再び一星は歩き出す。そうして、海岸へ続く階段を下りていった。風太はまた、彼のすぐ後ろを歩く。
「足下、気を付けろよ」
「へーい」
「この辺はさ、散歩とか、ジョギングにはいいんだ。ただ、潮風のせいで、洗濯物は外に干すようにはなるけど。前に住んでたところは、そういうの平気だったか?」
「あぁ、うん……。風が強い日は、部屋干ししてた、かな……。でも、あんま気にならなかったかも」
「そうか」
風太は
「おい、一星。お前、どういうつもりだよ」
「どういうって……なに」
「文句でもあんのか」
「文句……?」
「だって……、お前がおれを連れて海に来るのに、ほかに理由なんかねえだろ」
そう言うと、一星はきょとん、とした表情をしたあと、ふっと笑みをこぼす。だが、その表情はやけに寂しげに見えた。
「そういうんじゃない。ただ、ちょっと話しておきたいことがあったんだ。父さんがそのうち話すかもしれないけど、いい機会だし、先に俺から話しておこうと思ってさ」
「……だから、なにをだよ」
話があると言いながら、どこかもったいぶっているような感じがして、風太は
「あのさ……、驚かせるかもしれないけど、俺、父さんとは本当の親子じゃないんだ」
「え……?」
「父さんと俺は、戸籍上は、親子ってことになってる。養子縁組してるから。でも、血の繋がりはない。俺は、蒸発した母親と、その母親が離婚した男の子どもなんだ」
それを聞いて、風太は
「父ちゃんと母ちゃん、どっちも出てったのか?」
「そうだよ。昔、実の父親とは何度か連絡がとれたんだけど、今はもう交流はなくなってる。向こうは向こうで、ちゃんと家庭があるみたいなんだ。父さんは、俺にはあまり話したがらないけどね」
「母ちゃんは?」
「実の父親と離婚して、最初は俺を引き取ってくれたけど、そのあと、父さんと同棲はじめて、籍入れて……、一年くらいした頃かな。また別に男作って逃げた」