「お前、いまだにあの人と連絡とってんのか……」
「白河先輩かぁ。風太、気に入られてたもんねー」
「ふっふっふ、驚いたか。これでも、おれは白河先輩の
「だけど、白河先輩って、
なぜ、白河が風太によくしてくれるのかは風太にもわからないが、風太はその理由を気にしたことはなかった。単純に気が合って、一緒にいると楽しい。先輩も後輩も、友人も、それ以上に一緒にいる理由なんかない。そう思っているからだ。風太は得意げに鼻を鳴らした。
「は……っ。残念ながらなぁ、お前と違って、白河先輩は
「なに、風太。ついに勉強する気になったの?」
「だって、一星がテストの点数で勝負しようって言うからさー」
そう言って、メッセージ欄を開く。そこには「風太、久しぶりに会わない? ハンバーガー食べに行こうよ」という、
「……なんだよ」
「やめとけ」
「あぁ……?」
「勉強は、頭のいい人に教わったからって、成績が上がるわけじゃない。それに、大学生になったばっかで、白河先輩だって忙しいだろ」
どこか、
「あらまぁ? 一星くん。もしかして、怖いのかなぁ? おれが
からかうように風太がそう言うと、一星は
「そんなことはどうでもいい。ただな、白河先輩にどんだけ頼っても、お前自身がちゃんと勉強しなきゃ、誰に教わっても同じだって言ってるんだ」
「だから、おれはちゃんと勉強しようとしてるんじゃんか」
「……どうせお前、先輩に手っ取り早く点数稼げる方法とか、山当てで確率高いところとか、聞こうって思ってるんだろ」
「な……」
密かに考えていたことを言い当てられていて、思わず口ごもる。だが、これまで散々、勉強をサボってきた風太が、一気に学力を上げる方法があるとすれば、それしか考えられない。風太は言い返した。
「べつにいいだろ! それのなにがいけないんだよ!」
「そういうのはな、ちゃんと勉強するって言わねえって言ってんだ! っていうか、勉強くらい自分ひとりでできねえのかよ! ……ガキ!」
「んだとぉ、てめえ、このやろ……っ!」
「ちょっ……、ちょっと! 一星までなに熱くなってんだよー、やめろってば!」
取っ組み合いのケンカになる直前で、太一がレフェリーのごとく、仲裁に入る。いつにもまして、三年B組内で
その日、風太は久しぶりに参加した剣道部の稽古が終わったあと、急いで白河にメッセージを返した。この機を逃してはもったいない。なんとしても、優秀で
負けっぱなしのおサルなんて、カッコ悪すぎだろ……。おれは今、ちょっとでも、一星に追いつきたい。追いついて、せめて、ツートップって言われるくらいにはなりてえんだ……!
「くそっ……」
あさってか……。早いとこ、荷造りやっつけちまわねーと……。
急いで作業をしながら、ふと、風太は雅に目をやる。雅が高校時代、どうやって勉強していたのか、気になったのだ。思えば、雅の高校時代の話を、風太はあまり聞いたことがなかった。二十歳を過ぎる頃までは、地元、千葉で真っ赤な特攻服に身を包み、ごついバイクを乗り回すレディース総長だったと聞いているが、それくらい。あとは、高校は何事もなく卒業した、ということだけだった。その話だけで、風太は勝手に雅を、「ヤンキーと勉強をいい感じに両立していた、すげえ母」くらいにしか思っていなかった。
「なー、母ちゃん……?」
「んー?」
「母ちゃんって、高校んとき、勉強ってどんくらいしてた?」
「えぇ? あんた、それ……、母ちゃんに
じろり、と
「勉強なんかやってる時間、全然なかったよ……。毎日、毎日、忙しくってさ」
「忙しかったって……、なんで?」
「隣町にね、すんげえムカつく女がいたの。そいつ、いっつもアタシの男にちょっかい出しやがってさ、仲間のバイク、わざと傷つけたり、パンクさせたりしてくんのよ。最低でしょー? だからね、母ちゃん、しょっちゅうそいつと戦わなきゃなんなかったってわけ」
「あっ、ははは……。なーるほどねー……」
雅に聞いたのが間違いだった――と、風太は激しく後悔しながら、笑みを引きつらせ、手を動かした。そうして思う。自分は思っていた以上に、雅の血を濃く
しょっちゅう戦ってたって……、それ、まさに今のおれじゃんよ……。
「なーにィ、あんた。まさか、勉強のことで悩んでんのー?」
「うーん……、まぁね」
まさか、一星と今度の中間テストで勝負したいから、成績を上げたいなんて言えない。だが、成績を上げたい理由は、風太の場合、いくらでも思いついた。今のままでは、進路は選べるほど多くはないだろうし、大学からのスポーツ推薦が来たとしても、受けられるかどうかも怪しい。多少なりとも勉強が必要なことは、風太自身、わかってもいる。
「おれ、今年は受験だしさ……。もし、インハイとか行けたら、いい大学から推薦とか、来るかもしんないじゃん。だから……」
そう言うと、雅はほんの一瞬、目を見開き、力なく笑みをこぼした。
「そっかぁ……。ごめんね、母ちゃんが勉強教えてあげられたらいいけど、この頭じゃ、全然役に立ちそうもないし、今年、受験なのに……、母ちゃん、塾も行かせてあげらんないや……」
「いや、いいよ。塾なんか行きたくねーもん。それに、大学なんか行かなくたって、就職するって道も――」
「なーに言ってんの。風太が大学行くお金は、母ちゃん、ちゃーんと貯金してあるんだからね。遠慮しないで、行きたきゃ行きたいって言いな」
「母ちゃん……」
親指を立てて、得意げに笑みをくれた雅の言葉に、思わず風太は手を止める。雅は、太郎と恋に落ちても、やはり母だった。元ヤンで、甲斐性のない男につかまって、風太を産んで、お金がなくて、それほど
「あんがと……」
「どういたしまして。――あっ、そうだ。風太さ、勉強なら、一星くんに教われば? 一星くん、二年生のときの成績、学年で二位だったそうじゃない」
「へ……」
学年で二位――。そう聞いて、思わず手が止まり、目を見開く。成績優秀だと知ってはいたが、まさか、そこまでだとは思わなかった。
ひと
「学年二位……。あいつって、そ、そんなすげえの……?」
「あら、あんたたち、仲良しなのに知らなかったんだ?」
「な……っ、なか、仲良しなんかじゃ――……っ」
あんなのと、仲良くなんかない。思わず、そう返しそうになって口を