いや、よくわかんねー……。おれは、恋愛ってしたことねーからなぁ。
そもそも、一星がちゃっかり恋なんかしているのにも驚きだった。なにしろ、あの一星だ。勉強もスポーツもできて、剣道部では主将を任されていながら、隠れて恋までしているなんて。どこまでも器用だと感心すらしてしまう。
「好きな子、ねぇ……。
下唇を突き出し、鼻からため息を
「なになにー、風太たち、恋バナしてんのー?」
「混ぜて、混ぜて」
どこからともなく、クラスメイトの女子たちがやって来て、風太と太一にいたずらに声をかける。普段なら大歓迎のノリだが、今は少しだけ面倒に思った。だが、ふたりを挟むようにして、ベランダに並んだ彼女たちに、至近距離でわくわくした瞳を向けられれば、まんざらでもない気もしてくる。すると、太一がそれを
「風太にさー、どうしたら彼女ができるか、作戦練ってたの」
「作戦? なにそれ、なにそれ!」
「おもしろそう!」
ふたりはけらけら笑いながら、話の続きを待っている。風太はまたため息を
「風太はね、一星みたいにモテたいんだってー」
太一はおもしろがっているのか、やはり、冗談めかして言う。すると、女子たちが文句ありげな声を上げた。
「えー、それはムリくない?」
「いくら源平コンビって言ってもねー」
「なーにが違うってんだよ! おれだって、見た目はそんなに一星と変わんねーだろ! 背だっておんなじくらいだしよ」
「うーん……、一星くんってさぁ、物静かで、冷静で、普段、誰かと群れたりもしてないでしょ。孤独なオオカミっぽくって、かっこいいじゃん。ああいうタイプって、女の子からすると目を引くんだよ」
「そうなの……?」
「そうそう、一匹オオカミって感じでねー」
「一匹オオカミ……。おっ、おれは?」
「え?」
「あいつが一匹オオカミならさ、おれもなんかあるっしょ? ねぇ、なにっぽい?」
風太は思わず
「風太はさ――……おサルだね」
「おサル……?」
「そう。風太は一緒にいて楽しいけど、いっつもうるさいし、すぐギャーギャー言うから。おサル」
その言葉に、太一がたまらず噴き出して笑った。風太の顔が、途端にかあっと熱くなる。一星が一匹オオカミなのに、どうして風太がおサルなのだろう。いくらなんでもひどすぎる。
「な、なんだよ、それ……! おれ、全っ然かっこよくねーじゃん! ほかにねえのかよ!」
「ほらほらぁ、そういうとこだって!」
「風太、おサルピッタリじゃん! 一星と犬猿だもんねー」
「ほんとだ、ピッタリじゃーん」
「お前らなぁ……、覚えてろよ……」
三人が腹を
くっそお……。おれは一生、こうなのか……。このままずっと、一星には敵わねーのかよ……。
自分の未来を悲観しながら、教室へ戻る。だが、やはり、このまま負けっぱなしなんて
よし……。次の勝負でおれが勝ったら、好きな子が誰か、吐かせてやるぜ……。
放課後。ホームルームが終わったあと、風太は一星をつかまえて、再び勝負をしようと、話を持ち
「悪いけど、もうそういうフィジカル勝負は、お前とやらないから」
「え! な、なんで――……」
「だって、お前にケガさせたら、父さんも雅さんも心配するだろ。だから、やらない」
「なんで、おれがまたケガする
「お前……、ほんっとにガキだよな。それができないから、この前みたいになったんだろーが。言っとくけど、この前の件のせいで、俺は今後、お前と試合稽古するのだって、気が進まないんだからな」
「はぁ? なんだそれ」
なんだか、一星に弱いと決めつけられているような気がして、おもしろくない。風太は先週、倒れた翌日にはちゃんと病院へ行ったし、あちこち検査を受けて、どこにも異常がないと診断をしてもらっている。足もだいぶよくなってきたので、そろそろ剣道部の稽古にも参加したいと思っていたところだ。それなのに、一星はまだ、風太のケガを気にしているようだった。
「言っとくけど、おれ、もう、ほぼ
「だから。やらないって言ってんだろ。――あ、それか、次の中間テストの合計点とかなら受けて立つけど。どうする?」
「中間、テスト……?」
そう言われた途端、かあっと頭に血が昇る。テストの点数で勝負をするなんて、それはあまりに風太にとって不利な勝負だ。剣道やスポーツならともかく、勉強で一星には敵うはずがない。そもそも、学力のことだけ考えれば、彼がこの学校にいること自体、不思議なくらいなのだ。
「それなら、やってもいいよ」
「てめえ……、きったねーぞ! そんなもん、ぜってーお前が勝つに決まってんじゃんか!」
「ずいぶん、ネガティブだな。やってみなくちゃわかんないだろ」
「わかるっつーの!」
風太がムキになって返すたび、一星はくくく、と笑った。彼は、もうおかしくてたまらない、といったふうだ。明らかにバカにされているようにしか思えないが、
「くっそおー……」
せめて、剣道と同じくらい、勉強でもこいつとやり合えたらな……。
「なーにやってんの、風太、一星も。またケンカぁ?」
太一がやって来て、ふたりをジトっと
「ケンカじゃねえし」
「なら、いいけど。もう部活行こうよー。風太も、今日から復帰するんでしょ?」
太一にそう言って
無理だよなぁ……。
風太はため息を
「お……?」
不意に、ポケットの中で、スマホが
「おぉーっ! すげえ、超ナイスタイミング! 白河先輩からだ!」
「……白河先輩?」
一星が、