肌を撫でる風が暖かい。胸が
三年生かぁ……。なんか大人って感じだよなぁ。今年は部活も学校行事も最後になるし……。
ふと、同じクラスの女子生徒の姿が視界に入り、その
そうだよ……。今年こそ、ついに彼女とか、できちゃったりもするかもしれない……! このおれにも、ついに彼女が――……!
「おっはよー、風太!」
「お、おう! おはよう」
不意に、声をかけられる。密かにキラキラした高三生活を妄想しながら、下駄箱で上履きに履き替える風太に声をかけたのは、友人の
「ねぇ、ねぇ。新しいクラス、もう貼り出されてたよ。オレ、B組だった」
「へえ。おれは?」
「知りたい?」
「うん」
「……風太もB」
「なーんだ、まあた同じかよー」
これは毎年、お決まりのやり取りになっているが、たまらなくホッとする。六年間も同じクラスだったせいで、今さら太一と離れるのは、ちょっと寂しいのだ。クラス分けなんて、ただの運と縁なのだから、離れてしまったって仕方ないとは思いながらも、毎年、春になると、クラス替えの表を見るまでは、なんとなくドキドキさせられる。特に今年は、高校生活最後の年。文化祭も体育祭も最後になるから、特別だった。
よかったぁー……。
「またまたぁ、実はけっこう嬉しいくせにー」
「うるせえ。それにしても、ほんとにおれら、昔からクラス被るよなぁ」
「そうだね。今年は三年から、選択授業が増えるから、その選択を基準にクラス分けされたっぽいよ」
「へえ、そうなんだ」
いったい、それはどこから手に入れた情報なのだろうか、と不思議に思いながらも、風太は
「あぁ、そうそう。――それでさ、風太の天敵もBだったよ」
「……え?」
「だから、天敵。
その名を聞いて、思わず立ち止まる。源一星。さあっと血の気が引くような感覚に、思わずふらつきそうになる。
「う……、うそだろ……!」
「残念ながら、ホント。一年のときからやり合ってたけど、ここでついに同じクラスになっちゃうとはねー。ケンカしすぎて、縁がからまっちゃったんじゃないの?」
「ふっざけんな……! なんで、あんなのとおれが――」
「誰が、あんなのだって?」
腹の立つほど、爽やかな声が聞こえて、風太は思わず、振り返る。背後にはいつの間にか、風太よりも少し背の高い影があった。端正な顔についた、切れ長の瞳が、風太を見下している。
「一星……」
「おはよう、風太。太一」
「おはよー」
春風に桜が舞う、この暖かな季節に、彼は間違いなくアンバランスだった。一年中、まるで晩秋か、冬をまとったかのような、
「てめえ……、朝からカッコつけてんじゃねえぞ、コラ」
「べつに、カッコつけてないけど」
「カッコつけてんだろーが。なーんなんだよ、そのサラサラヘアーはよ。女子ウケ狙ってトリートメントでもしてきたのかぁ?」
「トリートメントなんてするわけないだろ。風太こそ、今日は気合い入ってるじゃん。寝ぐせいっこもないし、ワックスつけてキマッてるし。新しいクラスだから、女子ウケ、気にしたんだね」
「うるっせえな……! おれはな、くせっ毛なんだよ!」
「知ってるよ。朝練のあとは
さらりと笑顔でそう返されて、余計にむかっ腹が立つ。この源一星という男は、どうしたって口の減らない男なのだ。いちいちカンに
「あれ、おもしろいよな。最初は、わざとそういうセットしてるのかと思ってた、俺」
くくく、と一星に笑われて、風太は拳をぎゅうっと握った。脳天まで、一気に血が上っていく。風太のくせ毛は、母
「てめえ……、人が気にしてることを……。いっつもいっつも、おれの目の前で、これ見よがしに髪の毛サラサラさせやがって、このやろ――」
「あー、もう。はいはい、そこまで!」
朝一番の言い合いに見かねた太一が、ふたりの間に割って入った。日常、風太と一星のケンカを止めるのは、
「君たち、新学期早々、くだらないケンカしないでよ。これから一年間、同じクラスなんだからさ――」
「えっ!」
太一の言葉に、それまで、冷静だった一星の表情が一変する。風太は、まだ直視したくないその事実から目を背けるように、ぷい、とそっぽを向いた。
「同じクラスって……、誰と誰が?」
「風太と一星。あ、ちなみにオレもね」
「そう、なのか……」
驚いたのだろうか。
「見てみ、ほら。こっち」
太一に
「ったく、信じらんねぇ……。お前と一年間、おんなじクラスなんてよ」
「ほんとだな……」
「まぁ、こうして、みんなで同じクラスになっちゃったんだし、この一年くらいはクラスメイトとして仲良くやってよね、ふたりとも」
太一に言われて、風太は下唇を突き出してみせる。クラスメイトとして、仲良くなんて、絶対にできるわけがない。当然、一星も同じ気持ちでいるはずで、彼もまた、風太と同じように渋い顔をするのだと思った。だが、一星はなぜか、くくく、と笑みをこぼし、「絶対に嫌だね」と言って、風太が苦労してセットした髪を、ぐしゃぐしゃにしたのだった。