風花と六花。
私はその見分け方を『かわいい方が六花で、かわいくない方が風花』と言ったが、それは性格の話。
同じ背丈で同じ顔を持つ一卵性双生児は、当たり前だけど二人ともそっくりで、どちらもかわいらしい。
違う制服だから見分けは付くけど、もし同じ格好していたら、見た目じゃ絶対分からない。
他に見分け方があるとするなら、風花の耳たぶに光るピアスくらい。
「久しぶりね、風花ちゃん。元気だった?」
「近寄るなっ!」
気さくに話しかける六花に、風花は強張った表情で怒鳴りつける。
「お前は昔、六花を騙って私に近付いたニセモノだ! 今度は春花をだましたって事ね!?」
「何言ってるの、風花ちゃん。ちゃんと私を見て。私は六花――あなたの双子の妹よ」
やっぱり……風花は六花を認めない。
なぜなら、生きてる人間が幽霊になって憑りつく事や、多重人格として現れる事はあり得ないから。
風花にとって目の前の六花を認める事は、自分の中にいる
「お前が六花なわけがないっ! それでも六花だと言い張るなら、中学の時……どうして急に私の部屋に来なくなったか答えてみろっ! 私を見捨てたからか!? そんなヤツ、最初から六花じゃないっ!」
「あの時……私は瀬名家に住んでいなかったのよ。離婚したお母さんと、一緒に家を出たから」
「ふふっ……簡単にボロを出したわねっ! あの頃六花は、毎日ウチの道場で剣術の稽古をしていた。週に一回は稽古の後、私に会いに来てくれた。ウチに住んでないわけないじゃないっ!」
「両親の離婚後も、私は毎日、瀬名家の道場に通っていたの。週一で風花ちゃんと会ってたのも……お父さんに頼まれて」
「嘘よっ! そんな話、六花から聞いてないっ!」
「あの頃の風花ちゃんは、精神的にとても不安定だった。お母さんだけじゃなく私まで家を出ていったと知ったら、どうなってしまうか分からない。だからお父さんは、私に黙っててくれと言い含めていたの。それでも風花ちゃんの、私への依存度は増す一方で、お父さんは私達を強引に引き剥がす事にした。だから私達は、扉越しに会話するようになっちゃったんだよ」
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だッ‼」
風花は目を瞑り、何度も首を横に振る。
まるで、記憶に残る忌まわしい過去を、振り払っているかのように。
「風花ちゃんはどんどん精神的に追い詰められていって、いつの間にか私と話していても、誰か違う人と話しているみたいになっちゃった。会話が全然、成りたたなくなっちゃったの。あの頃、本当に申し訳ないけど、私怖くて……風花ちゃんの部屋から自然と足が遠のいた。今思えば、あの頃から風花ちゃんの多重人格は始まっていたのかもしれない」
理事長の話では、風花は扉越しの会話の時、姿見に写った自分を六花に見立てて話しかけていたという。
おそらく鏡の中の風花と扉の外の六花が、頭の中で混同し、いつの間にか自分で喋って自分で答える――そんな一人遊びを演じていたのかもしれない。
「いい加減な事ばかりっ!」
ついに我慢できなくなったか、風花は赤樫棒を振りかざすと、六花に飛びかかった!
危ないっ、と声を出す間もなく、六花は木刀を一閃。頭上を襲う赤樫棒を真っ二つに斬り落とすと、返す刀で風花の鼻先に、鋭い切っ先を突きつける。
そこに描かれるは、白く波打つ鮮やかな
木刀に見えたそれは鞘で、居合で抜かれた刃は、まごうことなき日本刀だった。
「真剣を持ち出すなんて……どうやら本当に、私を殺しにきた刺客ってわけね」
「確かにこれじゃあ……私が悪者になっちゃうね」
呆気に取られる会場に、私はマイクを取って叫んだ。
「皆さんも知っての通り、風紀委員長は棒術の達人です! 先の大野球大会では、ここにいる双子の妹、居合術の達人・六花と入れ代わったと、理事長から説明がありました! その替え玉疑惑は濡れ衣だって事を、これから証明します!」
六花は日本刀を鞘に納めると、帯刀するもう一振りを、風花に投げ渡す。
「春花から聞いたわ。風花ちゃんの中に、もう一人の私がいるんでしょう?」
「……六花は一人よ。今までも、これからも」
「構えなさい。戦国時代の昔から最後の決着は真剣勝負と、相場が決まっているのよっ!」
ダンッと、大きな踏み込み音を響かせて、六花は飛び込んでいく!
「ちょっと! まだ、ピアスがっ!」
慌てる風花に構わず、凄まじい瞬発力で距離を詰め、電光石化の抜刀一閃!
風花は最小限の身のこなしだけで斬撃を躱すと刹那――、同じく木刀鞘から居合で刃を引き抜き、下方から六花に斬りつける!
目にもとまらぬ一太刀を、六花は難なく刀で薙ぎ払い、そのまま納刀した。
「やっぱり風花ちゃん……腕は衰えていないじゃない」
笑顔の六花に、風花は居合の構えのまま荒い呼吸を繰り返す。
両耳にのアレクサンドライト・ピアスが、妖しい赤紫の光を放っている。
「みっ……見ましたかっ!? 風紀委員長・瀬名風花は、棒術だけでなく剣術も達人級ですっ! 決勝戦の替え玉疑惑は真っ赤な嘘! サヨナラホームランは、間違いなく風花が打ったんですっ‼」
どよめく会場を気にも留めず、六花はゆっくりと風花に近付いていく。
風花はビクッと身体を揺らし、
「私は居合術くらいしか、自分のものにできなかった。でも風花ちゃん、あなたは華道茶道剣術棒術……全てに才能のある特別な子よ。だからこそお父さんは、あなただけを手元に残し英才教育を叩きこんだ」
「違うっ! 今のは六花がっ!」
「ピアスをしていたら、風花ちゃんの中にいる六花ちゃんは、外に出てこれないんじゃなかったの? 金属アレルギーなんだから」
「それは……私が後でアレルギーに苦しむだけで、六花が表に出てこれないわけじゃない!」
「随分都合のいい設定ね」
「あの子が表に出た時だけ、金属アレルギーになるのは事実よ! 後から耳が、赤くかぶれてくるはずなのっ!」
風花の必死の言い訳に、六花はそれ以上何も言わなかった。代わりに、腰の居合刀に手を添え抜き放つ。
その動きに過剰に反応し、飛び退く風花。同じく抜刀し、警戒を強める。
「風花ちゃんがお父さんから、ふたご座のピアスをもらったように、私は二振りの居合刀をもらった。双子の姉妹をイメージして、名のある刀匠に打たせた双剣なの」
ピアスならともかく、年頃の娘になんてものをプレゼントしてるんだ、あの理事長は。
「ピアスを内なる双子の証明だと言うのなら、この双剣もまた、あなたと私が双子だと証明する事ができる」
六花は刃を裏返すと、沿った峰を左手でさすった。
「こうやってこすると、双子の紋章が現れるの。風花ちゃんもやってみて」
半信半疑の風花だったが、抜いた刀を逆手に取って、その峰を静かにさする。
さすった左手に目を落とすと、風花の表情がみるみる青ざめていく。
六花は左手を突き出した。
小さな手の平の中央に、赤くかぶれた線ができている。
「私だけじゃない。私と同じ遺伝子を持つ双子の風花ちゃんも、小さい頃から金属アレルギーなの。お父さんがプレゼントしたそのピアスは、宝石以外は純チタン製。最初から、金属アレルギーなんかにならない素材でできているのよっ!」
ガシャンと、風花の手から刀が滑り落ちた。
だらりと下がった彼女の左手にも、六花と同じ痛々しい線が浮き上がっている。
「それでも……それでも私の中には六花がいるっ! 本当に六花がいるのっ!」
「……そうだと思うわ。でもそれはきっと、風花ちゃんに必要な、六花だったんだよ」
突然、風花は背を向け舞台袖へ。全速力で駆けていく。
「風花っ!」
私は風花を追いかける。
落ちた抜き身の、居合刀を跨いで。