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第6話 敵陣へ

 遠くの方で蠢く負の集合体に、咲夜は溜息交じりに肩を落とす。

 第二監視所に居た者たちは、既に第一監視所へと移動を開始しており、余力のある者はそのまま桜花へと向かうよう指示もしておいた。

 この騒動が収まった後、臨時の拠点を建てるつもりだからだ。


「百鬼夜行――あと十年、巡礼を終えるまでは、この目で見たくは無かったのですが」


 悪鬼酒呑童子の妖気、そして『妖を滅する』という唯一つの意思に呼応した妖魔らが、群れを成して侵攻し、辺り一面を焦土と化すまで暴れまわる現象、百鬼夜行。

 酒呑童子の復活と共に訪れる千年に一度の災厄故、今生きている妖の中にその目で見た者はおらず、伝え聞く文献と口伝でしか、咲夜もその詳細を知らなかった。

 よもや、ここまで地獄のような光景だとは。


『だが事実、こうして既に起こってしまっている。何を言ったところで詮方なかろう』


 隣で、遠くの方を見つめながら妖気を練り上げるハクが言う。


「ハクはいつでも現実的ですね」


『夢見がちな巫女の世話をしているからな』


「ふふっ、言ってくれます」


 皮肉を込めた目で笑うと、咲夜は担いでいた長巻の柄に手を添えた。


「臭いですね、本当に。酒呑童子らしい妖気とは初めて相対しますが、これほど噎せ返るようにおどろおどろしいものだとは」


『悪鬼羅刹を束ねる主のものだ、綺麗な筈がなかろう』


「それもそうですね」


 迫り来る軍勢の中に、伝え聞くその姿こそ確認は出来ないけれど。

 一等強く感じる最奥に、きっとその姿が隠れていることだろう。


「悪い咲夜、遅くなった」


 ふとして掛けられる声に、咲夜は振り返ることなく不敵な笑みを浮かべた。


「部隊の方は良いのですか?」


「既に命は通達している。私と、お前、そしてハクが全力を出せば、却ってあいつらを巻き込みかねんからな。事が全て終わった後の始末だけで良かろう」


「もう、また私の指示を無視して……でもまあ、それには私も同感ですけれどね」


 可笑しそうに笑うと、一息、大きく呼吸をしてから、


「じゃあ――それで済むよう、お姉さんたちも頑張らないとね」


 力強く、長い刀身を抜き払った。


「無論だ。汚泥に塗れた下劣な連中に、これ以上の無秩序な侵攻は許さん。一匹残らず屠ってやろう」


 揃って強く地面を踏み鳴らすと、ふたりは津波のように迫り来る妖魔の群れへと突進していった。

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