それからというもの。
悠希は月に一度、満月の夜になると必ず、上手いこと嘘を考え、裏山へと通うようになった。
辿り着きさえすれば、あの光に包まれて、勝手に夢の世界へと行ける。
理屈は分からない。
でもそんなこと、無垢な少年にとっては、どうでもいいことだった。
楽しい。嬉しい。
それだけで良かった。
不思議だったのは、湖から帰った悠希を、祖父母があまり驚かずに出迎えてくれることだった。
夢中になって何時間も、時間を忘れて遊んだ後で、咲夜の「そろそろ」という言葉を以って悠希は元の世界へと帰る。
それだというのに、祖父母は怒らないどころか「早かったね」と言葉を掛けてくるのだ。
こちらとあちらでは、時間の進み方が違うのだろうか――そんなことを、一度は考えもしたけれど。
答えは出ないどころか、悠希はあの世界のことを、咲夜の言うように『素敵な夢』だと思い込んでいた為、さして気にすることもなく、すぐにそんな考えは捨ててしまった。