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epilogue 「壊蝕」

「ほらほら、行くよティア! 今日はヤマトさんの復帰セールなんだから早く行かないと! ヨシハル達に全部食べられちゃう!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよキソラ! そんなに慌てなくても絶対間に合うって!」


 灰塵都市スクルータ二番街にて、キソラは右手でセレスティアを引っ張っていく。


 あれから数日が経った。

 C機関による間引きのコロージョンは起こらず、灰塵都市が腐り落ちることもなかった。

 あの一件以降、灰塵都市にある全ての超万能培養細胞ハピリスは白く染まり、大地も建物にも陰鬱とした黒は一切ない。

 それが果たしてハピリスの寿命が延びたのか、それとも一時的なモノなのかはまだ分からない。

 それでも今、この時間。キソラたちは望んだ未来を掴み取ったのだ。


「そういえば、左腕、元に戻りそうなの?」


 掴まれた手と、風で靡くキソラの袖を見ながらセレスティアが尋ねる。


「うん。エステルの話じゃ、時間はかかるけど私の細胞を使えば再生治療が出来るんだってさ。っていうか、ユウリは『何としてでも絶対に治す!! 治らなかったらわたしがキソラの左腕になる』って意気込んでるよ」

「それはまた、あの子らしいっていうか……。そう言っている姿が目に浮かぶわね」


 涙を流しながら宣言するユウリの姿を思い出して笑うキソラにセレスティアも苦笑する。そこにはもう、絶望に打ちひしがれていた二人の姿はない。

 否、それは灰塵都市すべてに言えることだった。

 明るく、活気のある街並み。キソラ達が命を懸けて救った世界。誰もが笑顔を浮かべ、明日を迎えようと生きている。


「なんにせよ、左腕が戻るのなら良かったわ。キソラにはまだまだ働いて貰わないといけないんだから」

「はいボス! 私、報酬は本物の美味しいケーキを所望します!」

「ふふっ、それじゃあ頑張って世界を救いましょうか。そうなったら、ケーキとかも食べ放題でしょうし」

「やたー! 私、頑張っちゃうよー!」


 これからの未来に想いを馳せて、キソラは心も身体も躍らせる。


「あ、ちょっ! 落ち着きなさいよ!」


 掴まれた手にセレスティアも動かされる。二人一緒に人込みを避けて動くその姿はまるで、パ・ド・ドゥの様に華やかな希望に満ちている。

 二人は崩れることのない大地をしっかり踏みしめ、輝く未来に向かってかけていくのであった――。


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