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5-6 「ファイナルフェーズ⑥」

 その凛とした声は、ヴァリアントの群体の中から聞こえてきた。ハッキリと力強く漲っているその言葉と共に、『力』が具現化した。

 静寂に満ち、天が閉ざされた空間に『雷』が天に向かって走った。


「良い言葉だったわキョウカ。おかげで私も元気が戻ったわ」


 雷の如き轟音と破壊力は容易にヴァリアントを消し飛ばし、中にはセレスティアが立っていた。

 腐蝕の影響を受けているのか、身体のいたるところがボロボロ。特製の戦闘着は所々が破れ、肌も見えている。しかし、それでも五体満足。

 それどころか、身体に纏っている夥しい稲光がかつてないほどの生命力を感じさせていた。そこで、右手に持っている無針注射器が見える。

 限界を超えた三本目をセレスティアは打ち込んだのだ。


「セレスティア……、あなたそれ……」

「言いたいことは分かるけど、こんなところで死ぬつもりはないし今は後回し。キョウカは作業を再開して。今は私がいるんだし、十分もあれば余裕よね?」


 ただでさえ限界を迎えてボロボロだった身体に三本目だ。身体への負担は尋常ではなく、頭の先からつま先まで激痛が走っている。血管が浮き出た端正な顔は、血涙で染まり、痛々しい姿だ。

 それでも煌々と輝く黄金の瞳は、彼女の諦めない心の表れ。それを見てキョウカは深く頷き、この場を任せてコンソールを叩き始める。


「当たり前よ! 五分で終わらせてあげるわ!」


 意気揚々と希望の笑みを浮かべて作業に移るキョウカに、冷静さを少し取り戻したミステリオは邪魔しようと再び招集した三体のヴァリアントを差し向ける。


「なに勝手なことしてんのよ!!」


 キョウカに襲い掛かるよりも何倍も速く、雷光がヴァリアントを駆け抜ける。耳をつんざく轟音と共に、貫かれたヴァリアントはそのまま焼け朽ちた。

 自分の策が一瞬で沈黙させられたことを不快に思い、ミステリオはセレスティアを睥睨する。


「……まさか、あの絶望的な状況でまだ諦めず我が輩にたてつこうとするとは。これだから何も理解できない凡人は嫌いなのです」

「絶望……? おあいにく様、この程度の絶望で諦めるくらいなら、最初からこんなところになんかいないわよ。アンタをブチのめして、コロージョンを止めて、この世界を救うまで……私は死ねないの……!」

「それはそれは……、叶えることが多くて大変ですね。では見せてください、貴女の奇跡とやらを——」


 セレスティアを嘲るミステリオが大仰に手を振ると、ヴァリアントが更に十数体規模で追加される。自分のクローンを幾度となく実験体にしたのだ。成功数に限りはあれど、その数は膨大だ。


「貴女たちが息巻くのは勝手ですが、所詮は死に体。風前の灯で一時的にパワーアップしているだけのタイムリミットは先程よりも短いはず。そうですね、例えばキョウカさんが今言った五分……あるいはそれ以下といったところですか」

「……さぁ、どうかしらね?」

「下手な嘘はそれが真実だと伝えているようなモノですよ。あと二百十三体と我が輩を相手に、果たして貴女はまだ生きていられますかね!!」


 軒昂とミステリオが指揮すると、それに呼応してヴァリアント達がセレスティアに襲い掛かる。その光景は先ほどの焼き増しだ。

 だが、同じ結果にはならない。


「今更そんなモノ、私の敵じゃないのよ!!」


 断続的に振るわれる剛腕を躱すと、瞬きよりも速い速度で幾重の雷光を走らせてヴァリアントを焼き消していく。

 それでも、やはり多勢に無勢。いかに超高速で動け、超火力で攻撃出来ても思考速度は人並み。消してもそれ以上に投入され、味方諸共攻撃を仕掛けるヴァリアントを前に、対処が少しずつ遅れていく。


「ほらほら、どうしたんですか!? 対応が遅くなっていますよ!? そんな体たらくで、よくも奇跡を再現するなどと大言を吐けましたね! ただの人間にはそこが限界ということです!!」


 投入されるヴァリアントが更に追加される。それら全てをかき消すだけのパワーはあるが、それを使った時点でセレスティアは力尽きる。先程以上の絶望的な状況。

 ただ、血に塗れた彼女の顔には笑みが浮かんでいた。


「だから、それがどうしたっていうのよ」

「は?」


 三百六十度、縦横無尽に迫っていたヴァリアント二十五体が全て同時にになった。

 あれほどまでに苛烈だった戦場に一時の沈黙が訪れる。あまりの劇的な変化に、先にミステリオの思考が停止した。


「な、な、な……な、なんですかそれは……!!」


 目を見開き、指を突きつけた先には、セレスティアの周りを超高速で回っているナニカがあった。小さく迸っている電光から、彼女が『ソレ』を操っていることに間違いはない。

 ヴァリアントが近づく度に、まるでミキサーに入れられたように細かく切り落とされていく。


「これ? アンタが無駄遣いしてるオモチャのもう一つの弱点よ。さっきも見たでしょう?」

「——ッ! この施設の破片……!」

「その通り。キソラは良いことを教えてくれたわ。やっぱり、彼女が私にとって最高のパートナーね」


 それは、吹き飛ばされる前にキソラがヴァリアントに向けて放った瓦礫の砲弾と同等の攻撃手段。

 腐蝕の影響を受けにくいこの瓦礫による攻撃なら、ただ雷光を走らせるより遥かに燃費がいい。

 セレスティアは瓦礫一つ一つに電気を通し、自分の周りで半自動的で円を描く『柵』を造ったのだ。


「建築物に使われる超万能細胞ハピリスの成分が、炭素変化による硬度強化で助かったわ。電気が通りやすいおかげで、御覧の通り。これならまだまだ持つわ」

「ちょ、超常の力をそこまで精緻に動かすなんて……! ただの、人間に出来るわけが……!」


 星の周回運動の如く超高速回転する瓦礫は電気で繋がっているため、軌道は即座に変更可能。一度指を動かすだけでソレは超高速の『矢』となる。

 それを飛ばしてはヴァリアントを貫かせて行動不能にしていく。 


「ただの人間だからってバカにしないでくれる? 悪いけど、こちとら覚醒の経験ならキソラよりも長いのよ」

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