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4-7 「サードフェーズ②」

「これがが美しき光景……ですって? こんな気色の悪いどこが……」

「それを理解できないからダメなのです。腐蝕のコントローラブルという、自然の力を従えた私のこの力! 全ては腐蝕への愛ゆえの結果です!! 科学は神に最も近づける手段とは言いますが、既に超えたと言っても過言ではないでしょうね!」

「——大地の寿命っていう科学の限界から目を逸らしてよく言うわね」


 金色の双眸に瞋恚の情を乗せたセレスティアが、ミステリオを睨みつける。

 まるで視線だけで人を殺さんと言わんばかりの強烈な視線。

 だが、それを見てミステリオは怯えるどころか路傍の石を見るように視線を返した。


「誰ですか君は。今は大人が喋っているのです。関係のない子供は黙っていなさい。崇高な我が輩の言葉だけを耳にしていれば——」

「アンタが崇高? なに勘違いしちゃってんのよ。コロージョンなんてご高説を垂れてるけど、それが出来るようになったのは元を辿ればパパの【ウォーカー・レポート】のおかげでしょう? 人様の力を借りて、恥ずかしげもなく悦に浸ってるだけの小物がなに粋がってんのよ」


 小馬鹿にしたセレスティアが余裕ある笑みを浮かべる。


「なん……ですと……! 何も知らない小娘が、我が輩を侮辱するかぁぁ!!」


 自分に対して絶対の自信があったのだろう。それなのにセレスティアによって見下されたことでミステリオは激高する。

 しかし、それもほんの少しの時間のこと。彼女の言葉の中にあった一つの単語に気付いたミステリオがニタリと口角をいやらしく上げた。


「——いや、小娘。今、パパとか言いましたな。ということは、アナタあの無能な科学者の娘ですか!!?」

「パパが、無能……!? 取り消しなさい!!」

「無能を無能と言って何が悪いのです? 【免疫接種イミュニティ】の強化から始まり『リバース・アクト』の草案とL・A・Rラルの開発。確かにこれらを見れば理論だけは優秀です。ですが——」


 最大の侮蔑の表情をしたミステリオがセレスティアを見下す。


「結局はなんの成果も生み出せなかったゴミ理論!! 『リバース・アクト』もコロージョンも、成功に導いたのはこの我が輩!! パパ、パパと喚き散らし、その威光を借りて吠えているだけの小娘が我が輩を侮辱するなぞもってのほか! 世の中に出てもっと勉強してから出直しなさい」

「アンタねぇ……!」


 先程までとは打って変わって、慈愛の籠った笑みを向けられたことでセレスティアの怒りが頂点まで振り切れる。

 怒りはスパークとして呼応し電気が身体から漏れ出ると、ミステリオがここで感情を『無』に戻した。


「ですがまぁ、この我が輩が侮辱されたままというのも気持ち悪いですし……。いいでしょう。——アナタたち、裏切り者のキョウカくんごと、彼女を始末していいですよ」

「ティアッ!! お母さんッ!!」 


 ミステリオが腕を振り下ろしたのとほぼ同時、装置に隠れていたソレらに真っ先に気付いたキソラが後ろから二人を突き飛ばす。

 次いで、火炎放射器を抜き横薙ぎに放射。

 激しいの炎がそれを包み込むも、それが出来たのは僅かに二秒だけ。炎の中から強風が起こされ、かき消されたそこに立っていたのは強個体のヴァリアント。

 それが——。


「嘘でしょ……。アイツが一気に三体もいるなんて……!」

「それだけじゃないわ。あの三体、博士の指示に従ってた……。飼いならされた獣ほど厄介なモノはないわよ……」

「二人とも、私の後ろから出ないでね。アイツ等の相手は私がするから」

「何言ってるの!? 一人であの三体を相手に取るなんて無茶よ! アナタが戦うなら私も——」

「ティアは今、冷静じゃないでしょ」

「——ッ!」


 図星を突かれた様にセレスティアが目を見開く。

 そう、冷静ならば力を使わずとも彼女ならあの程度の突進は余裕を持って躱すことが出来ていたはず。

 ここに来るまでの道のりと、父親を心の底から侮辱されたことにセレスティアはもう冷静ではいられなかったのだ。


「それに言ったじゃん。絶対に守るって。今は落ち着くまで私に任せて。それまではキッチリ時間を稼ぐから」


 そう言い放ち、キソラは三体のヴァリアントと俯いたミステリオと対峙する。

 だが、ミステリオは喋らない。

 いや、喋れないのだ。

 ——なぜなら今、ミステリオは感激に打ちひしがれていた。


「キミ、なにをして——」

「——もしやもしやもしや! その顔立ち! 人類を超えているとしか思えぬその身体能力! 生きているとは思いませんでしたよ!! K-3641号!!」


 涎を垂らしながら、ミステリオがはしゃぎだす。

 それに嫌な顔をするのは当然キソラだった。


「あーそういえばあの実験の責任者だったんだっけ。なら、私のことも知ってるか」

「そりゃ勿論ですとも! 『リバース・アクト』の唯一の成功例を何故忘れることが出来ますか! アナタが産まれたあの日からずっと、アナタのことを考えて生きてきたのですよ我が輩は!」

「それはどうも。ちっとも嬉しくないラブコールだね」


 じりじりと話に紛れてじりじりとキソラは距離を詰めていく。三体同時にヴァリアントを相手取るのは厳しいことは流石に理解している。

 ならば真っ先に本丸を叩くのみ。ミステリオ司令塔を潰せはどうにでもなると、短期決戦の構えだった。


「そんなにべもなくフらないでくださいよ。アナタがいれば、こんな出来損ないを作り続けなくて済んだのですよ? もっと応えてくれてもいいじゃありませんか。じゃないとが可哀想でしょう」

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