「ふっ! はぁっ!!」
「甘い甘いッ! その程度の力で世界に歯向かえると思うなよ! 守りたいモノがあるなら、その力を示せ!」
「——ッ!! ッラァァ!!」
オープンフィンガーグローブを着けたヨシハルの拳が、獰猛な笑みを浮かべるディアラの顔面に迫る。
左、左、右。頭を揺らしながら全てを躱していくディアラが一歩後ろに下がれば、踏み込み左回し蹴り。
下手に食らえば骨が折れそうなそれをディアラが右腕でガードすると、止まらず前へと大きく踏み出して左掌底。カウンターで入った重たい衝撃が腹部を貫通する。
「がはっ……!!」
「人を傷つけるその躊躇いの無さは良いぞ! 評価+二点! さぁ、残り四点! 時間内に十点満点取れるか!?」
「くっ……! 舐めないで……くださいッ!!」
吐き気をこらえ攻撃を再開。入団試験と称されたヨシハルとディアラの戦闘が再開される。
——ここは、
そこの一画にあるトレーニングルーム。ベンチに見立てた立方体の硬質化培養肉が壁際に二つあるだけであとは何もないこの場所で、二人は手合わせをしていた。
ヨシハルの腰の入った左ストレート。それを左手で受け止めると、流れるままにディアラは右に動いて逆関節を決める。ヨシハルの腕が折れない様に右手で左肘を押して強制的に曲げさせると、後ろに回って拘束。
後頭部を掴み、そのまま床に押し倒した。
「あぐっ……!!」
「格上相手にも怯えず、攻め気は上々。あの嬢ちゃんと鍛錬してたとはいえ、流石は
「アンタこそ……科学者然としながらこの戦闘力……。反則でしょう……」
「色々と出来なきゃ、この世界では生きていけないんでね。手を伸ばすしかないのさ」
会話で力が少し緩むのを期待したヨシハルだったが、それもお見通しと言わんばかりにディアラは体ごとより強く床へと押し付ける。
「チッ……!」
「にしても、まさかお前さんたちが嬢ちゃんたちに付いてくるたぁ思わなかったぞ。別に俺たちは嬢ちゃんたちの力を借りられたらそれで良かったのによ。言っておくが、生半可な覚悟じゃお前も周りも殺すだけだぞ」
「分かって……ますよ、そんくらい……! だから、こうしてオレの力量を確かめてんでしょうが……!」
必死に上体を起こそうとディアラに抗う。極められた腕からミシミシと音が鳴る。
「おまっ……! それ以上、無理に動かしたら……!」
「うおおおおおおっ!!」
セレスティアが求めたのは、『力』を持つキソラとキョウカだけ。多少の喧嘩の心得はあるとはいえ、一般人の
だから、一般人と同じように救われるのを待つだけで良かったのだ。
それでも——
「——あんな笑顔で『行ってきます』なんて言われて、『行ってらっしゃい』なんて返せるほどオレもユウリも薄情じゃないんでね!」
「んなっ!?」
上体を起こし、地面と体に空間が出来ると骨が外れる鈍い音が左肩から鳴る。激痛が肩から全身にかけて回るがヨシハルはそれを無視。
肩が外れ、稼働域が増したところで上半身を捻り、右手でディアラの眼を突きにかかった。
「このッ!!」
貫かれる寸前、パッと手を離す。それを見計らい、ヨシハルは脱出。すぐさま立ち上がり、
外れた左肩はだらりと腕にぶら下がっているだけ。激痛で脂汗が顔に出ているが、その口角は吊り上がっていた。
「さ……続き始めましょうかぁ」
「お前、イカれてんな」
「命がどうのこうの言われる場所なんでしょ? だったら、腕の一本なんて安いもんでしょうが。キソラの奴がそこに行くのなら、オレもついていくまでの話ですよ」
まるで人を救うことだけが自分の生きる意味と決めつけているキソラの行動指針。それを良しとして、負担を何もかも押し付けて自分たちは救われるのを待つだけなんてことをヨシハルも——そしてユウリも許さない。
「それに、C機関のせいで腐蝕事変が起きたっていうのならアイツ等は親の仇だ。少なくとも、一発ぶちかますくらいのことをしなきゃ割に合わないじゃないっすか。目に物を見せてやらないと」
にやりと不敵に笑うヨシハルを見て、ディアラがきょとんとなり次には笑い始めた。
「はっはっは!! 良い覚悟だ、気に入った! 認めてやろう邑上ヨシハル! 加点なんぞ、もうどうでもいい! 今からお前もスペルビアの一員だ!」
「ソイツはどうも……。ありがとうございます」
「ってことで、早速これは歓迎祝いだ! しっかり受け取れよッ!!」
ディアラが一瞬で間合いを詰め、牽制もなく右ストレート。風を切り裂く豪腕が迫る。
満身創痍のヨシハルがそれを避けられるはずもなく、左頬に勢いよく突き刺さった。
「(はっ……。今行くぞ、キソラ。だから、ユウリ。お前も頑張れよ——)」
沈んでいく意識の中、ヨシハルは別の場所で覚悟を示しているであろう妹を応援するのだった——