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幾度もの戦いを乗り越え、三崎たちはついに学校を脱することに成功した。
とはいえ安全が保証されたわけではないし、なによりも──
「ここまでだな」
陣内が言う。
各々、家族がいるのだ。
いつまでも一緒に行動しているわけには行かなかった。
「不安だけど……」
そう言う杏子は山本と視線を交わす。二人は家が近いと言う事もあって、一緒に家に向かうつもりだった。
早紀はカンナと家が近い。
三崎、陣内、絵里香はそれぞれ家が別方向にあるため同行できない。
一部の者たち──陣内や三崎以外は落ち着かない様子だった。
ここまで全員が一丸となって何とか危険を乗り越えてきたというのに、ここに来てバラバラになるのだから不安を覚えて当然だ。
「じゃあ俺は行くぜ、親父とお袋が心配だからな。お前らも折角ここまで来たんだからあっさりくたばるなよ。じゃあな」
そう言って陣内は去っていくが、その背を追う様にしてアングリー・オーガが後に付き従う様子には一種の貫禄が漂っていた。
「じゃあ俺達もいくよ。……なあ、三崎、他の皆もだけど──お前らと一緒じゃなかったら多分俺死んでたよ。マジで感謝してる。だから本当は少しでも助けになりたいんだけど……」
山本がそういうと、他の者たちも済まなそうな表情を浮かべている。
この学校脱出行で誰が一番重要な働きを見せたかは明らかだ。
言ってみれば恩人といってもいい。
だのに──
「それは僕もそうだよ、家族を優先するのは当たり前だと思う。今何が起こってるのかよくわからないし、今後どうしたらいいのかも分からないけど……まあ、また皆で再会できたら良いとおもう」
三崎はそんな事を言って、ふ、と絵里香をじっと見た。
絵里香の目は雄弁に "私もついていきたい" と語っている。
もし絵里香がそれを口に出したら、自分はどう答えようかと三崎は悩むが──
「私も家族が心配だから。本当は三崎君と一緒に行きたいけれど。本当に、三崎君と一緒に居たいけれど。でも、行くね。また必ず逢いましょう、約束よ」
そう言って背を向けて去っていった。
絵里香は勿論本心では三崎についていきたい……そう思っている。
しかし家族が心配だと言うのも本当だし、なによりも "引き" が大事だと意識したのだ。
その方が三崎の気を惹けるから。
そして、再会についても心配はしていなかった。
また必ず逢える──そんな確信があるからだ。
ただの勘などではない。
マナという超常的な力を自覚した今、敢えて言うとすれば、マナが囁いているのだ。
『必ず再会できる、それも近いうちに』と。
残されたのは誠子と三崎だが──
「私も……」と誠子が言う。
三崎が目を向けると、誠子はどこか思いつめた様子で学校を見て、そして何かを振り切る様に視線をそむけた。
何かを選び、何かを捨てた顔。
「私も行くわ…… "彼" を探しに」
── "彼" っていうのは、先生の……
そうあたりをつける三崎に、誠子は少し表情を緩めて言った。
「途中まで瀬戸さんと同行できると思うから、一緒に行こうと思うの。だからそんな心配そうな目をしないでもいいわよ」
一人よりは二人のほうが安全であることは言うまでもない。
誠子が絵里香に同行してくれるというのは願ってもない事だった。
「ありがとうございます」
三崎はそう言って頭を下げる。
そして──
皆が去っていき、一人になった三崎はぽつりと言った。
「帰るか」