目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第22話 マ・ヌ

 ◆


「今の声は……」


 三崎たちも遠く屋上の方から響いてくる叫び声に気付いていた。


「……他の連中かもな」


 陣内が険しい表情で呟く。その言葉に一同の顔が引き締まる。


「屋上にいるのか……でも、どうするんだ?」


 山本が迷いのある声で問いかける。


「僕は助けたい……とは思っているけど」


 三崎が答えるが、絵里香は複雑な表情を浮かべる。


「でも、私たちが行っても、本当に助けられる? 余裕なんて……」


 その言葉に、微妙な沈黙が漂った。


「……私が行くわ」


 その場を打ち破るように口を開いたのは、九条 誠子だった。


「ここでぐだぐだ話していても何も変わらないでしょ? 私が行くから、皆は逃げなさい」


 誠子がそう言うと──


「先生!? そんなの無茶だよ!」


 杏子が慌てて声を上げる。


「皆には大切な人がいるでしょう? 先生にとっては生徒たちがそうなの。少し前まではそうじゃなかったんだけどね。あなたたちは二番だった……こんな時にこんな事を言うのはちょっとどうかとおもうけど」


 苦笑しながら言うが、目の奥の黒くてドロドロとしたモノは隠せない。


 誠子の "一番大切な者" はモンスターによって既に奪われているのだ。


 瞳に怨讐の念を滾らせる誠子を、三崎達はそれ以上説得することが出来なかった。


 ◆


「……あれは、鳥? いや、人? ……くそ、モンスターか!」


 フェンス際で叫び続けていた室井が吐き捨てる様に言う。


 それはただの鳥ではなかった。


「や、やばい……」


 屋上の覚醒者の一人である相田 良が慄きながら言う。


 彼の目には "視" えるのだ。


 ──『レア度4/踊り喰らう妖鳥マ・ヌ/レベル3』


 と。


 レア度とレベルがモンスターの強さに影響している事は、これまでの戦いで相田にも分かっている。


 問題は、この場には妖鳥マ・ヌより高いレア度及びレベルのモンスターを召喚出来た者が一人も居ない事だった。


 ・

 ・

 ・


 それは鳥というよりは鳥人だろうか? 鋭い嘴と鳥の頭に人間のような体、そして黒い翼を持つ異形のモンスターだった。


 そんなマ・ヌたちは次々に空中から屋上へと舞い降りる。


 怯え竦む生徒たち。


 マ・ヌの一匹が生徒たちの前に進み出てくると、ココココ……」という鳥のような鳴き声が、まるで呼びかけの様に繰り返された。


「襲い掛かって……来ない?」


 相田は疑問に思い、自身の召喚モンスター『レア度2/女王に使える忠兵ワーカー・ビー/レベル1』を見て安堵した。


 レア度、レベルから見てもとても敵いそうにもなかった為だ。


 ──もしかしたら交渉出来るかも……? 


 相田はそんな事を思い、マ・ヌの様子を窺う。


 他の者たちも同じ事を思ったのか、中には「あの、助けてくれるんでしょうか」などと話しかける者も居た。


 しかし──


 ──『コココ……キキキキ』


 マ・ヌから漏れ出た声は笑い声と言うよりは "嗤い声 " で、相田はその啼き声に含まれる不穏な気配に、背筋がぶるりと震えた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?