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東京がモンスターによって陥落した──そんな不吉なニュースがラジオを通じて何度も繰り返されていた。
電話やメールといった通信は完全に途絶し、東京は陸の孤島と化している。
そんな中、新田真由は三崎に会うために花菱高校へ向かっていた。
しかし──
「駄目……あっちも通れない……」
真由は歯噛みした。
大通りを避けて脇道を選んで進んでいるのだが、要所要所に如何にも凶悪そうなモンスターがまるで門番の様に立ちはだかっているのだ。
──『レア度4/血沸く魔刃のスカル・フェンサー/レベル3』
セイレーンとはレア度は同じだが、レベルで3倍差をつけられている。
ゲームには疎い真由ではあるが、戦っても勝ち目が薄い事くらいは分かる。
更に言えば、ここでセイレーンを喪ってしまったらどうなるのかという思いもある。
誰かに助けを求める事もできなかった。
あたりには血まみれの瓦礫と無残な遺体が点在し、皆が皆、自分の命をすら守ることもできていないでいるのだ。
赤の他人の命など、どうして守る余裕などあるだろうか。
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「おい、そっちに行ったぞ!」
若い男が叫ぶ。
「逃がすな! 囲んで一斉にやれ!」
別の若い男がまた叫ぶ。
男たちはそれぞれ赤の他人もいいところだが、徒党を組んでいた。
その数は5人か、6人か。
男たちには"魔石狩り"という共通の目的があった。
街ではモンスターを倒すことで得られる「魔石」の存在が知られ始めていたのだ。
この魔石には、人間を「覚醒」させる力や、召喚モンスターを更に強くすることが出来る力があると噂され、中には徒党を組んでモンスターに立ち向かう者たちもいた。
男たちもそういった者たちの一種である。
当然彼らは未覚醒だが、弱いモンスター相手なら数の暴力で殺し切ることもできなくはない。
例えば卑小なる尖兵ゴブリンの脅威度はピットブルより少し上といった所だろう。
成人男子でも一対一では危ないが、囲んで叩けばやってやれなくはない。
こうしてモンスターを殺し、魔石を得て、この未曽有の災害に対抗できる力を得ようと言うのは決して間違ってはいない。
しかし何もかもがうまくいくわけではなかった。
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「おい! その先俺のだ! 俺が止めをさしたんだろうがよ!」
若い男が凄む。
だらしない服装のチンピラだ。
一般的な感性なら、こういった輩と揉める事は避ける者が多い。
だがこの場では違う。
「ふざけないでください! みんなで倒したんでしょ! だったらじゃんけんでもクジでもいいから公平に決めましょうよ!」
いかにも気弱そうな青年が語気荒く言い返す。
他の者たちも同じように険しい目で若い男を睨みつけている。
平時ならばこういった状況で本格的な争いになることはそうない。
しかしこういった異常な状況では──
「う、がッ! て、てめぇ……」
若い男の背後から、中年男性が忍び寄り、崩れて路上に打ち捨てられていたコンクリートブロックで思い切り殴りつけたのだ。
そうして皆があっけに取られているうちに地面へ落ちている魔石に手を伸ばそうとした。
だがその手を横合いから別の男が蹴り飛ばし──
つい先ほどまで手を組んでモンスターと戦っていた男たちは一つの魔石を巡って殺し合いを始めた。
こんな光景──理性を失った人々の間で血みどろの争奪戦が都内のあちこちで見られるのだ。
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真由は花菱高校へ向かおうとしている道中、そんな光景を山ほど見た。
しかしその全てを無視した。
彼女が冷たいからというわけではない。
彼女の本心としては戦いをやめさせて一致団結を呼びかけたいところではあった。
しかし現実的にそれができるかどうかを考えるとこれがなかなか難しく、何より彼女には目的があるのだ。
脳裏に幼馴染である三崎玲人の姿が浮かぶ。