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第6話 銀騎士クラリッサ

 ◆


 教室には、激戦を生き延びた12人のクラスメートが集まっていた。


 そのうち6人が既に覚醒していたが、強力な召喚魔物を失い、あるいはクールタイム中という事もあって戦力は乏しい。


「トラちゃん死んじゃったんだけど……クールタイムが無いって事は、そういうことだよね……?」


 杏子が項垂れながら言った。


 再召喚を試そうとするが──


 ──何か変だ


 "通らない" という感覚がある。


 召喚の時に感じた、何かが体の中を流れ通ってくるあの感覚がない。


 ──『召喚不可。勇爪構えるタイガー・ゴブリンの再召喚には魔石(白)を捧げてください』


「白い……魔石?」


 どうやらそれがないと召喚が出来ないようだ。


 レア度1/卑しき尖兵ゴブリン/レベル1は召喚できる感覚はあるが、ゴブリンでどうしろというのか。


 合成は強力な能力ではあるが、メリットばかりでもないようだった。


 その時、一人の生徒──佐藤弘人が血と内臓に彩られた教室の床から何かを見つけた。


「これ、なんだろう?」


 佐藤は小さな輝く石を拾い上げる。すると魔石は瞬時に砂になったかの様に形を崩した。


「うわっ、何だこれ……!」


 石は砂に。


 そして砂は光に。


 光は佐藤に吸い込まれていき──


 ──『マナを吸収。蓄積分との合計により、 "最初の覚醒" に至りました 』


 そんな声が頭の中に響く。


「は? 最初の、覚醒? 蓄積分? な、なんだよ、どういう事だ?」


 ──『マナとは "意思の力" 。未覚醒者はこの意思の力を高める事で覚醒へと至ります。マナは魔石を取り込む事で増幅させる事ができますが、自らの力のみで高める事が出来た場合、もっとも大きく増幅します。また、魔石を使う事で覚醒の階梯を高める事も出来ます』


「佐藤、覚醒したのか!」


 陣内が驚く。


「わ、わからねえよ……でも頭の中にこんな声が聞こえてきたんだ」


 そういって佐藤は先ほど頭に響いた声を皆に説明する。


「なるほど……意思の力、か」


 三崎は自分を含め、これまでに覚醒してきた者たちの状況を思い起こす。


 ──皆多分……追い詰められて、それで覚醒した。死に瀕した時に何を想うか、それによって覚醒の為に必要なマナが溜まったって感じなのかな? ゲーム的に解釈すると。それに、レベルアップみたいなシステムもあるみたいだ。ますますゲーム染みてきたな……


「じゃあ、他にも魔石があるかもしれない!」誰かが叫んだ。


 生徒たちは一斉に教室内の魔石を探し始めた。


「見つけた! これは私のよ!」一人の女子生徒が叫ぶ。


「何言ってるんだ、俺が先に見つけたんだ!」男子生徒が奪い取ろうとする。


「やめて、返してよ!」口論が激化し、教室内の雰囲気は一変した。


「おい、いい加減にしろ! 今は協力しなきゃ生き残れないだろうが!」


 陣内が大声で怒鳴り、喝をいれる事で一時的に混乱は収まるが──


 それが間隙となってしまった。


 誰もが動かない、動けない空白の時間が出来てしまったのだ。


 そしてそれを見逃さず、魔石に手を伸ばす生徒がいた。


 佐伯 高貴。


 勉強もできるしスポーツも出来る。更に言えば顔も良い。


 挙句の果てに大企業の御曹司でもある。


 そんな者がなぜこんな普通の高校へ通っているのかは分からないが、本人に聞いても答えようとはしない。


「あ、おい! 佐伯! てめえ!」


 陣内が佐伯を見とがめて警告を発するが、やや遅かった。



 ◆


「 "力" っていうのはさ、それに相応しい者が握るべきだって思わないかい? 」


 言うなり、魔石を握り締める。


 すると光の粒子が佐伯に吸い込まれ──


 それが収まった時、佐伯はにやりと笑って周囲を見渡した。


「佐伯、覚醒したのか?」


 三崎が声をかけた。


「そうだ。これからは僕がリーダーだ。三崎、お前じゃなくてな」


 佐伯が三崎を睨みつけた。


 瞳に宿る光には、リーダーを奪われて悔しいという思い異常に、何か妄執めいたモノが宿っており、その余りの薄暗さに三崎の背筋はぞくりと震えた。


「何言ってるんだ、お前!」陣内が詰め寄るが佐伯は鼻で嗤った。


「……ふん、これを見てもイキがれるかい?」


 佐伯が銀色に輝く拳を握りこみ、頭上へと掲げる。


 ──『レア度5/雪禍の銀騎士クラリッサ/レベル1』


 銀色の光から現れたのは、一人の女騎士だった。


 全身鎧に身を包んでおり、顔はフルフェイスの兜で見えないが、鎧の胸部が膨らんでおり、シルエットで女だと分かる様になっている。


 ゴブリンだとかピクシーだとかパイソンだとかとは明らかに違う、何か特別な存在感の様なものがあった。

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