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第2話:強行軍

 その日はすでに夜であったので、寝るしかないという話になり。


「朝までに何かいい方法が無いか、考えてみます」と『キルヒャ』さんはそういって五号車から離れて一号車のほうに向かった。


 その次の日の朝であった、御者さんたちがさわいでいるので午前四時だったが起きる事にした。


 すでにみんな騒ぎで起きており、どうしたもんかと頭をひねっていたのである。


 一号馬車だけおらず、どこかへ向かったようであった。


 わだちを見る限りでは、サライに向かったとみて判断していいものではあるようだった。


 そして、グレイデルのパーティーも居なかったのだ。


「これは?」と二号馬車の御者に聞いたが、昨日はぐっすり眠ってしまったためよく分からないらしかった。


「居なくなったのは、一号馬車のメンツだけなのか?」と『ゲルハート』は聞いていた。


「五号馬車の荷物と御者さんを、危険にさらすわけにはいかないな」と『ウィーゼル』が言って五号馬車の御者さんたちを引き止めていた。


「依頼主も居ないだと!」と『ゲルハート』が叫びかけた。


 グレイデルのパーティーが功を焦ったか、とんでもない額の金銭を積まれて心が揺らいだかのどちらか、らしかった。


「馬車道では、馬車には馬車でしか追いつけません。一刻も早い決断をお願いします。さすがに、キルヒャさんと二ランクパーティーだけでは危険すぎる」と五号馬車の御者さんたちはヤル気のようであった。


「他に、サブリーダー張れる奴はいるか?」と『ウィーゼル』が聞いた。


 すると「九号馬車のチームがサブリーダーを張れます、緊急時は我々が先頭で戻る話でしたので」とサブリーダーはいった。


「分った五号馬車で追ってみるが、過大な期待はするなよ。怪我をしている可能性か下手すると、死んでる可能性もある訳だからな」と『ゲルハート』がいった。


「五号馬車のみんな、慎重にでもできる限り早く行くぜ」と『ウィーゼル』が言う。


 『セリア』は五号馬車に乗り込むところだった。


「行くのなら早くしないと間に合わないかもですよ! サブリーダーさんにあとは任せます。『デュイーン』さんのパーティーは残って直衛をお願いします」と『セリア』はいって五号馬車に乗り込んだ。


 私も急ぎ五号馬車に乗り込む、『ウィーゼル』が御者席のほうに回って乗り込み隠れた。


 『ゲルハート』も後方から乗り込んできた。


「五号馬車、出ていいぞ!」と『ゲルハート』は五号馬車の御者『アンリ』と『セレム』と『クルス』に声をかけた。


 最初は、『アンリ』の出番のようだった。


「ったく、パーティー同士の連携が取れてないとこうなる事があるんだ。最初に、やっときゃよかったぜ」と『ゲルハート』が愚痴ぐちいた。


「意思の疎通が取れてなかったりすると、こうなるんですよね」と『セリア』は悲しそうにいった。


「意思の疎通が取れていても、こうなることだってあるんだぜ。気にやむなよ、何かあったときブレるぜ」と『ゲルハート』がフォローに回った。


 馬車は、高速度で走っていた。今日はかなり速度を出している、としかいえなかった。


 サライに無事着いていてくれると良いのですが、とは思った。


 しかし楽観的な意見でしか無いので、口に出すのも躊躇ためらわれた。


 『アンリ』の横で、『セレム』が物理的な遠視で遠くを見ていた。


 それから、一時間は走ったろうか「はるか彼方かなたに馬車が見えます」と『セレム』さんが、いった。


 しかし、着いて見ると、車のみで馬もおらず荷物や人もいない、もぬけの殻だった。


「しかし、この馬車は間違いなく一号馬車ですよ」と『アンリ』馬車側面の記号を見ながらいった。


「二頭立ての馬車の馬が居ないということは、オーガノイドは二人以上かもな」と『ウィーゼル』がつぶやいた。


「分かった俺たちを降ろしたら、一旦センシヴズラまで戻ってくれ」と『ゲルハート』がいうと五号馬車から全員が、手持ちの荷物と共に降り立った。


 その後反転して走り遠ざかっていく五号馬車を見送ると、レンガ造りの壁面や壁にできたひっかき傷等を探索し始めた。


「後は何とかしてみよう。昔かじったのが役に立つときが来ようなんて思わなかったぜ」と大ぶりのダガーを引き抜くと、探索者サーチャーの真似事を始め出したのであった。


 私も念のため、レイダーを展開する。


 全周視界内という広域範囲内であれば、動く物体が物陰に隠れていても分かるようになる呪文である。


 いわゆる、便利な魔法だといえた。


「視界内に、エネミーなし」と呟く。


「エグジスタンス!」とも唱えておく、周囲に魂魄界以外の反応なしと出る。


 十五分後、「この傷跡で、間違いなさそうだな。何とか追えるぜ」と『ゲルハート』はいいながら、山手方向に進み始めた。


 サラト湖の方角では無く、逆方向だった。


 『セリア』はふくろうを呼び出すと。


 片眼でを瞑り片目で、上空から『ゲルハート』の向かう先を探索し始めた。


 ついでに、ティルファー! と遠視の術もかけたようだった。


 それから五分後、「けもの道を見つけたわ」といって梟をそちらの方向に向け高度をかなり高く設定し飛行させた。


 さらに、十数分経って「物資の集積所らしきもの、を発見したわ」とかなりいい調子で、探索し始めた。


 山手の谷面の入り口付近に、物資が無造作に積み上げられているようだった。


 それ以外は見えないらしい、異界感覚が走ったので、立っていた『セリア』の袖を引っ張って、しゃがむように誘導した。


 私もレイダーの半径を、通常の五十倍までに引き上げているのだ。


 動的物体が、複数動いていた。


 とりわけ大きく反応しているのが、二つあった。


 他は小さな反応で数は、十数人と言ったところだろう。


 味方のカラーをグリーンへ、不明の対象を全てレッドで返すように設定した。


 私が『セリア』に言った。


「大きい反応が二つ、小さい反応が十五」と静かに言った。


「あっちのほう」と指で刺し示す。


 一番先行しているグリーンは小さく固まっている七人の集団に近づきつつあった。


「テレパス」と小さくささやくと先行しているグリーンにこちらから見えている情報を統合して渡した。


 ついでに固まっている七人ほどのグループを青に設定する。


 そして私も「ティルファー」と囁き詠唱して、青い点の位置をしっかりと目視でとらえた。


「『キルヒャ』さんを確認」とささやいて意識にも乗せた。


 大きい動いているものを確認する、「赤黒い体の大きな、四メートルはありそうな巨人を発見」とささやき目視で捕らえたので意識に乗せみんなと情報共有した。


 もう一匹も色合いは同じくらいだが、少々小柄な三メートルほどの大きさだった。


 それも情報共有させる。


 あとは最初の雑魚とほぼ変わらないなりの集団だった。


 それも同じく情報共有インフォメーションシェアリングに乗せた。


「『キルヒャ』さんの周囲を確認する」とささやくと遠視で拡大して、その周囲に御者さん二人とグレイデルのパーティーも確認したので、レイダーに書き込むようにイメージ操作し各動体の位置を皆に周知した。


 これでみんなどれが敵で、どれが味方か分かったはずであった。


 一番危険な位置に居るのは、『ゲルハート』だった。


 四メートルの巨人に、一番近いのである。


 私の位置からでは、遠くて援護射撃は届かないに等しかった。


「今から暗闇を創り出す、みんな一斉に動いて。精神とリンクさせれば、情報共有に繋がるから」というと、「異闇アナザーダークネス」と即唱えた。

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