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第9話:昇給

 因みに事故は無いのかという話が出てきそうだが、街道には車列(三車列幅)と歩行者側の列の間に側溝そっこうが設けられている。


 車列側にそこそこの高さ(一.五メートル程度)の壁がもうけられており故意に入らなければ、事故が起きることは無い。


 とまでいい切れるものではある。


 それに三車列とは書いてあるが実質ギリギリまで壁に寄れば、四車列行けるくらいの広さが確保されている。


 街中では壁と側溝が無くなる代わりに車列の速度をゆるめることが駅馬車協会によってはっきりと定められており、違反するとかなり法外な罰則金を請求される。


 ヴェルゼニア王国のほうでもかなりしっかり管理しており、違反したところは貼り出(公表)されてしまうので営業に致命傷を負うことから速度は街中ではヒトが歩く速度と大差ないのである。


 他の国ではどうか知らないがヴェルゼニア王国の御者業界人としてはこれを知らないとモグリどころか、仕事を干されてしまうので守る事が広義に設定されている国だとも言えた。



 とまあそんなことを考えていると休憩の時間がやって来たので、仮に少し眠ることにした仮眠という奴である。


 現状は二交代制で馬車の車列の中ではあるが寝起きを繰り返し、時間になると少しの水と保存食を食べるという行為を行うのみの生活サイクルなわけである。


 これが護衛で無ければ、そこそこに揺れる車内でもできるゲームがあるのでそれにきょうじたり車窓から見える風景を眺めたり思い思いの行動がとれるのになあと思うことはある。


 ワケだが今回は私たちは護衛なので、車列に降りかかる何かを全て振り払うのがお役目の仕事なのでそういう訳にはいかなかったといえるだけなのである。



 今日は、いつもそろそろ暗くなる時間を迎える十九時である。


 夏季は比較的遅くなっても明るいことから、今までは真ん中に護衛がいるということを悟られないようにランタンを使わなかったわけではある。


 だが三度の襲撃を退けたパーティーが入っていることは知られてしまったろうから、今回は街に入るということもあるしランタンを付けようということになったのであった。


 そういうワケで、今現在はランタンが灯っているわけである。


 アマルテオには、他の都市同様に車列広場なる広場があるのだ。


 車列が来ると人足がすぐ寄って来て馬に水や飼葉等の補給物資を差し出す代わりに代金を幾何いくばくか請求するのであるが、大きな商会ともなると専用の車列ゾーンを持っておりそこでの補給になるのである。


 グラント商会は大きいに分類される商会だったので、専用の車列ゾーンを持っており補給には金が掛からない仕組み(前払い)になっているようであった。


 そして『キルヒャ』さんが、五号馬車にやって来た。


 車列広場の周りは隊商向けの宿屋、多く飯屋も並んでいるのである。


「みなさまも、補給と食事に行って来て下さい。出立は明日の朝になりますから、また朝六時には確認しに回りますので」とのことだった。



 私はみんなに聞いた「シェリフの時と同様に飯屋で、ご飯にしてトイレを一緒に借りませんか?」と聞くことにした。


 単独行動が危険になるということは師匠から強く教え込まれているのでその辺を加味していったわけでは有るが、みんなも飯屋というところに同意してくれた。


 仕事中は禁酒なんだという『ゲルハート』と『ウィーゼル』の言葉があったからではあるが、『セリア』は寝るの補助するくらいの食前酒や食後酒なら問題ないという考えであったのでとくに問題なく一致団結で決定されたのであった。


 価格帯についても、揉めることは無かった。


 度重なる襲撃とそれに関する活躍の比率の問題で、私たちは『キルヒャ』さんと話した結果一人五ゴルト出しましょうといわれていたのである。


 逆にいえばそれだけ活躍しているということでもあるワケだが、報酬は一ゴルトから五ゴルトという驚異的な倍率になったのである。


 逆にいえばこれからほとんどの相手をせねばならないという宣言にも近い物ではあったが、そういう意味でも今のうちに質の良い食事をしておくことが重要といえたのである。


 なので隊商を相手にしている酒場を除く飯屋の中では、比較的高い方に分類される飯屋を今日は選んだのであった。


 単に高級なだけの店を外して、コースではあるし四十ブロスもかかってはいたが質素な店内に比較して高級な食材と丁寧ていねいな料理が売りの店であったらしく豪華な料理が食べられたのであった。


 トイレは店内の奥に一つという構造であったため、食べ終わってから『セリア』が食後酒を飲んでいる間に代わるがわるトイレに行くという珍しい構図が見られた。


 まあそれは、仕方が無かった。


 私は三番目に行ったが、何と珍しく魔導水洗式という物に出会えた。


 トイレに行ったのにみんな臭わなかったので不思議に思っていると、魔導式の香料に該当する物が置いてあったのである。


 これのせいかと思い溜っていた物を全て出し尽すと終わったら引くと書いてある取っ手が付いていたのでドキドキしながら引いて見ると水が流れたのであった。


 水洗式とは、これのことかと思ったわけではある。


 清潔で画期的かっきてきであった、だが高そうでも合ったことは付け加えておく。


 まぁ実家なら手が届くのだろうが、そういえば家のは汲み取り式だったなと思ったワケではある。


 使用人が畑を作っていたので自給自足も可能ではあったが、飢えたらするのであろうがそこまで飢えた経験は無かったので幸せだったのだろうなと思った次第であった。 


 トイレが長くなってもいけないと思い、ショーツを引き上げ装備を整える。


 下は革の補強ズボンではあるので、用を足すのが楽なように出来ている。


 だから、これを選んだ経緯があった。


 全ての装備を付け終えると、忘れ物が無いかどうかだけ確認し出たのであった。


 出ると手を洗う水桶が、ありちょぼちょぼと水が出ているのでそれで手を洗い水をふき取ると思われる手拭きがあったのでそれで手を拭いて出て来たのであった。


 『セリア』の食後酒のほうは終わっており、今度は『ゲルハート』が果物をいていた。


「遅くなりました」と私がいうと『セリア』がいった「女の子なんだからいいのよ」と、「私も柑橘系の果物を日干しにしたものがあるそうなので、それをいただききますか」といってメニューから袋入りのレモンと呼ばれる大袋の物を一袋分四ブロスで購入したのであった。


「後で、分けられそうなくらいありますね。それに、いい匂いです」といった柑橘系にはなるのだがどうやら砂糖干しにしてあるらしく、一口頂くと口の中に甘酸っぱい懐かしい味が広がった。


 食べた記憶は無いのだがと思っていると『ウィーゼル』がいった「砂糖干しか、懐かしいな」と、そして続けた。


「干し初めは水分があるので砂糖が乗るのだそうだが、乾くにつれどんどん砂糖が乗らなくなるので創るにはそこそこの手間を掛けないといけない。そういうモノらしいので、俺の出身地ではそこそこの値段だったんだが四ブロスか画期的な方法でもできたんだろう」といった。


 『セリア』が出て来ていた「中々、面白いトイレでしたね」といって、続けた「さて出ますか」といったので私は大袋を持ち、先に支払ってはあるので出ようとすると『セリア』が聞いた「何か買ったの?」と。


 私が正直に答えると、メニューを見て「私も買おう」といって直接カウンターに、行って「私も大袋二袋も買っちゃった」と笑顔で帰って来た。


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