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第4話:仮想体

◆ 俺『ウィーゼル』視点


「今日はなんだかんだ言って『ゲルハート』が居なかったら、みんな巻き込まれていたかも知れないんだぜ? あの状況で『セリア』を完全に護り切れそうなのは、『ゲルハート』だけだったんだからな。だからひがむなって、自信を持ってくれ。お互いに、損な時もあるって」と俺がいって締めた。


「俺もなんやかんやで、スタミナは使ってるから。ウィオラ同様に、少し休ませてくれないか」と続けていって『ゲルハート』と場所を交代すると軽く寝始めた。



◆ 俺『ゲルハート』視点


「誰か、起きているかい?」と『キルヒャ』がやって来た、「やっこさん、全額耳を揃えて出したのかい?」と俺は、静かな声でいった。


「まるで、姉妹とおっさんが寝ているようだ」と『キルヒャ』は幌馬車の中を見て、そうつぶやいた「衛兵に突き出すって言ったら、即全額金貨でそろったよ」と『キルヒャ』がいった。


 そして「これが八ゴルト分だ」といって『キルヒャ』は、小袋を渡してくれる。


 俺がいった「念のために、数えさせてもらうぜ。一・二・三……八、確かに。後でパーティーのみんなに分けて置くよ、ありがとう」それを聞くと頷いて『キルヒャ』は、先頭車両へ向かった様であった。


 俺は時計を見た、十一時三十分……か先に走らせだすかな? と思っていると、幌馬車が続いて動き出した、少しでも早めに出る算段かと俺は考えた。



◆ 私『ウィオラ』視点


 起きた順は『私』、『ウィーゼル』、『セリア』の順だった。


 『セリア』が中々起きなかったのは、私が余り動かなかったせいでも合った。


 二ゴルトをいただくと、即ベルトポーチから財布を取り出してパカンと開いて入れてパカンとふたを閉めた。


 即ベルトポーチに入れて、後は起きているけれどもなるべく動かないようにしたから『セリア』が起きるのは遅くなった。


 変化したのはわずかであった、旅行財布の中の一G×〇が二になって[0.03kg]になり。


 旅行財布の中身が[0.595kg]に、全貨幣重量が[0.715kg]まで増えただけであった。


 よって、全備重量が六十二.八一五キログラムになっただけで済んだ。


 私が起きたのが、十六時くらいで『ウィーゼル』がその十五分後、『セリア』は更に四十五分かかったので、十七時にはなっていた。


 その間は特に襲撃などは無く、幌馬車は静かに走っていたわけであった。


『ゲルハート』からは、馬車は十一時半にはシェリフを出たことを告げられた。


「出たのが、元々遅いですからねえ」と私がつぶやき、続けた「今日も、野営でしょうね。仮に二十四時以降に着いても、街には入れないでしょうし。マルテラは都市ですから、門があるはずなんですよ。五.五時間遅れで出てますし、六時に出られたとしてもマルテラまではきびしい筈なんです。いつも通り休憩が二十一時なら……、エフェメリスからシェリフまでの距離よりも長いので」と私が一気に話した。


「て、事は?」と『ウィーゼル』が聞いた。


 それは「ほぼ、ど真ん中で休憩です。後は本当に、十日の行程で線を引いて居るかってことが心配ですね。この足は、寝るには丁度良いんですが」と私はいった。


「作為的に遅らせられて無ければ良いんですが、実は王位か何かに関係のある方が乗ってるとかで――、間に合わないから報酬が支払われないとかでも嫌ですしね。それだと逆にもっと、機動性のある馬車を使う筈ですよね。でも何か、嫌な予感しかしなくって」と私がいう。


 すると『ゲルハート』がいった。


「それにしても、襲撃のタイミングがバッチリ過ぎやしねぇか? こちらとら襲撃に継ぐ襲撃で、遅れて走っているのにだ。今朝の襲撃についても、出る時間ピッタシに仕掛けられてたところと言い。仕組まれた、襲撃だとしたら不味まずいと思うんだが」といった。


「術者とリンクした、仮想体かそうたいでも乗っていたら嫌ですね。つけられているのと、同じですから」と私がいった。


「『ウィオラ』仮想体ってなんだ?」と『ウィーゼル』が聞いてきた。


 それに私が答える「魔法で創られた仮の体に想いをリンクさせる事が出来る、東方系魔法の式術とか符術にある主に動物の姿を形作って姿を偽る事の出来る魔法の一種ですよ。まぁ真上を飛ばれていて、常に敵全てに場所が筒抜けになってると考えるのが妥当だとうではあるのですが。ただそれだと、全てのこの街道沿いに出る何かが全て結託けったくしていないと不自然になるんですよね」と答えた。


『セリア』はふとした疑問に行き当たった、ようであった。


「それだと常につけられてるって事よね、どうして私たちが寝ている間に襲ってこなかったのでしょうか」その問いに私の考えで回答する。


「仮想体は居るけど情報が取れないか非常に少ない情報しか持って無いとか逆に操作感度は高くても、情報を収集する能力があまり高くないとかでしょうか。後考えられるのは企画したはいいけれども、いざやって見たら難し過ぎて……という数パターンが考えられますけれども。そういえば、『セリア』さんは仮想体使えるんですよね? 東方魔法の神髄は仮想体にあるとウチの師匠がよく口にしておられましたので、それを使えるかどうかが腕前を分けるとも仰っていたのです」と。



『セリア』がいった「仮想体って言うのは初めて聞いたけど、私の創るふくろうはそれに近い物よ。でも今回はすでに五回以上同じパターンで……、すでに試作品でなくって完成品以上に仕上がっていると思うわ。という事は仮想のほうに徹して偽装する事をメインに考えすぎた結果、情報収集能力に弱点を持ってしまったと言う見方で良いのかしら」と。


「うーん」と私が唸った、そして喋り出す「これは最も嫌な相手になるんですが魂魄界をずっと同じ速度で走る何かが居て、それが我々の魂を追っているという線ですが。ただそれだと魂の表情を読める相手だととても不味くて、今回みたいな襲撃が何度も続く事に成ります。魂魄界というのは物質世界に完全に被った、異界の最も反応しやすい物と呼ばれていますから。モノを隠すのには丁度良いのですが、逆にそこまでの腕の術者がいると言う事に成ると魔導士ギルドが束になっても叶わない可能性が出てきます。魂には表情はあるが、寝ているとかの状態があるとは教わらなかったのです。でも今の話が本当にあるのだとしたら、最も厄介な敵を相手にしている事に成ります」といった。


『ウィーゼル』がいった「魂魄界って言うのには、少しだけ聞き覚えがある。確かサリーネの正神殿が我々の住んでいる世界には無くて、その魂魄界にあるという説を神官殿が説いておられるところを聞いたことがある程度なんだが。まぁだから現世にあるサリーネの正神殿は、誠神殿って書き方をするんだが」と語ってくれた。


 そして全員で「うーん」と再び悩むのであった。


 時間は二十一時に近かったが、幌馬車の一群は走り続けていた。


 私たちはランプを使わずに、月明りの中話しているのである。


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