目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第1話:師匠を追うと心に決めた

 私はまだ修行中の身だったのだが、修行の最中に師匠がどこかへ転移してしまったのでその時の書置きを持って現在師匠を探して旅をする予定である。


 師匠の書置きでは「わしゃ南に行く。来たければフレイニアまで来るがよい」という書置きだったので師匠を追って南下して師匠に会えるまでのことを旅日記として書いて行こうと思っている。


 私の生まれたヴェルゼニア王国はとても広い国で私の住むエフェメリスという街はヴェルゼニア中央部に属する大都市で過ごしやすい気候が多く、中央部としては若干北緯寄りになる地域らしい。


 レスウィスティーナの創りしこの世界では比較的多いタイプらしく、夏季と冬季に分かれており雨季と乾季が交互に来るような少し温暖な気候風土の国である。


 通年を通して三十度程度の温度が標準ではあるが、湿度が低め大体四十から三十パーセント以下のためとても過ごしやすい国なのである。


 冬場の寒気でも二十七度程度を標準気温に推移すいいするくらいの温かい国なのであるからして極寒ごっかんというものに縁が少ない土地柄ではあった。


 師匠はその容姿にかなり特徴があるため、探すのは楽なはずであるのだ。


 地道な聞込みと、冒険者ギルド御用達ごようたしの宿屋での聞込み等で城塞都市じょうさいとしのどこかにいることは分ったのだが、一重に城塞都市といっても大小さまざまな城塞都市がありよく分らなかったので北からど真ん中を通り城塞都市や都市や村に行っては小さい依頼をこなし旅銭を稼いで又旅をするという方法を考え着いたのであった。


 そうそうコレを書くのを忘れていた、冒険者はギルド加盟店では旅銭の出費が抑えられるように宿代が安くなっているのだ。


 素泊まりまで落とすと何と五十ブロス(青銅貨:B)まで落ちるのだ、二食付けると一シルズ(銀貨:S)まで上るが、普通の宿の半額以下で二食付くのである。


 旅をするもの、特に冒険者はもの凄く優遇されているのである。


 それもそのはず一生を産まれた街から出ずに過ごすモノは、わずか十パーセント程度といわれている。


 冒険に行くものが大体五十から六十パーセントといわれるほど、冒険に出かける者が多いのである。




 エフェメリスという名の大都市の高位の貴族出身である私には最初剣を習うという目標と古代魔法を習うという目標があったが、その両方をミックスして魔法剣士になるという選択肢は無かったのである。


 偶々庭で練習していた私を見ていた師匠が技を教えようという気になったらしく、ウチに入り込んできたのだ、ギルドの職業指南役しょくぎょうしなんやくという肩書かたがきだったので、ウチの者もすっかり舞い上がっていたのだと思う。


 ギルドの方から声をかけるというのは滅多めったにないことではあったので、それだけ見込みがあるといわれてしまったということになるのだが。


 修行を開始してから三年ほどたったある日、一緒に郊外のイスという村まで遠出の修業に行った帰りに森で休んでいるところに、ギルドからの使者が転移してきて面倒を見て欲しい者が出た叩けば伸びるという言葉に大層興味たいそうきょうみを示した師匠はそのひととなりを聞き、私に書置きを残し転移して行ってしまったのである。


 師匠の技が卓越たくえつしていて、一部のすきも無く完璧かんぺきであるのは三年以上一緒いっしょに修行させてもらい、魔法剣士になってから二年は一緒に修行していたのでよく解ったそれ位もの凄い技量を持つヒトだったのだ。




 イスから戻った私は、家族に書置きを見せこのようにいったのである。


「師匠を追ってとりあえず、フレイニアまで南下する。未だ教わってないことが多くあるので」と一大決心でもあったのだが母からは「もうウィオラも十五歳になります成人の儀式が行えます」といわれ、父からは「我が娘ウィオラよ決してくじけてはならない、挫折ざせつするときもあるだろうが決して途中で投げ出してはならない。テッラエ家の家訓である」と旅の門出かどでを厳しくいわしめる言葉で飾られたのであった。


 それ以前には師匠に技を教わるということで十二歳からギルドにはもう入っていたので、ギルド証はもう持っていたしギルドに行って何かするというのはれっ子だったのである。


 私の生まれた家テッラエ家というのは由緒正しき高位の貴族にして上級伯爵家はくしゃくけではあったので、本来は私よりも歳の多い兄と姉がいたからこそ出て来れたのだが。


 長女であれば、出て来れないところであった。


 妹も居たから、最悪は出て来れないなんてことは無かったわけではあるが。


 八人家族で家令が一人、執事一人、家に使える従者は総勢二十五名近くに上っていたし、騎士である兄の従者が三人と姉には婚約者一人がいたから出て来れたわけではあるのだが。


 なので私は冒険に出る、『立派になるまでは家に戻らない』というちかいを立てたわけである。


 誓いはこの日記に書いただけでありどこかで宣誓せんせいしたわけでもないので、意味合いがことなるのである。


 でも心得の一つには違いない、師匠から更なる技を教えてもらいより完璧になってこの世界を歩きつくしてみたいのである。


 今、まだ仲間はいないが、その内旅の仲間もできるだろう。


 フレイニアに居る、師匠に合うまでの道のりは長いのである。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?