やがて冬が訪れた。
クリスマスに、年越しに、正月に、彼女の母親は、「遠くて実家には帰れない」と口にする彼をアパートに呼んだ。
小柄だが豪快な母親は、中里を当初から気に入っていた様で、二人より三人のほうが楽しい、とばかりにケーキに年越しそばにおせちに雑煮に、と思い切りその時には腕を奮った。
*
そして冬の最後のイベントのバレンタイン・デイ。
正直、中里にしてみれば、「何だそれ」状態だった。「縁が無い」以前の問題だった。
なのにこの年は、と言えば、「彼女」が自分にこう尋ねるのだ。
「ねえ哲ちゃん、バレンタインに、何が欲しい?」
その日の存在すら気付いていなかった彼にとって、何が欲しいもへったくれもない。
よし野はそんな彼の、硬直するくらい困った様子に気付いているのかいないのか、友達はどうしたこうした、と話を続ける。
「ねえ哲ちゃん、聞いてるの?」
「ああ……」
勢いに押されてはいるが、一応「聞いて」はいた。だが、やがて話の流れはおかしな方へと向かっていった。
「でねえ、斜め向こうの関谷ちゃんは、こう言ったの『バレンタインには、あたしをあげるんだーっ』って」
「は?」
「だから、例えばあたしだったら」
そこまで言った時、さすがに彼女も思わず手で口を塞いだ。
「えええええと」
さすがにその時には、察しの悪い中里も、その意味が判った。
硬直がさらに悪化して、彼は午後一の授業をついに欠席してしまったのだが、それも仕方あるまい。
ところが。
2月7日水曜日。
その日、靴箱で見つけた赤い小瓶に入っていたのは、六粒の「R」と「四年九組 羽根よし野」と書かれた紙だった。
彼は自分の目を疑った。何度も何度も、「R」の数を数えなおした。紙に書いてある字を読み直した。
嘘だろう、と思った。嘘であって欲しい、と思った。
つまりそれは。
彼はびんと紙をぐっ、と握りしめた。
逃がさなくては。
彼は思った。
自分から。危険になるはずの自分から、彼女を遠く、遠く、自分が追いつけない程の場所に。
そして中里は、よし野に旅行を提案したのだ。
*
「でもねえ」
女は手の中で、赤い小瓶を転がす。
うふふ、と甲高い、水晶の様な女の声が、放課後のLL教室の中に流れる。
「あいつが考えることなんて、そんなものよねえ。結局コレが無くちゃ、いくら今日あのコを遠くにやったとこで、どうにもならないって言うのに…… あ」
広げられた制服のブラウスの下、なめらかな白い肌の上に、男はねっとりと舌を這わせる。
「全くお前は、アレが切れそうになると、淫乱になるな…… それだけでもう、これか?」
んん、と長い髪が、教卓の下で揺れる。
男は一度スカートの下に潜り込ませた指に、透明な粘液を絡ませ、女の前にぐっと見せつける様に突き出した。
「そういうセンセも、それをいいことに、あたしに好きなコトしてるじゃない……」
「役得、と言うんだな」
低い声は、そうつぶやく。
「こんな『仕事』をやってるんだからな」