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たとえこの身が滅びようとも、僕は決して君を忘れはしない
たとえこの身が滅びようとも、僕は決して君を忘れはしない
🍀みゆき🍀
現実世界現代ドラマ
2024年11月20日
公開日
3.1万字
連載中
【あらすじ】

いにしえより神の遣いとされてきた白蛇。
瞳はルビーのように赤く、体はアルビノによって生じた白化した姿。

その魅惑する風貌から、または神の化身なのではないかと言い伝えられてきた。
ゆえに、日本各地では縁起のいい動物として信仰の対象にもなっている。

このような神獣ではあるが、意外にも天敵が多く簡単に鷹やイタチなどに捕食されやすい。
だからであろう、ある日のこと……神社の片隅で、一匹の白蛇が猛獣に襲われていた。

そんな最中――、現場に偶然にも出くわした4人の幼子達。
この者たちの活躍によって、白蛇を猛獣の手から助けてやることができた。

けれど、傷は深く致命傷を負っていた為に、瀕死の状態であった。
だが……懸命な介抱により、一命をとりとめることに成功。

これにより、白蛇は幼子達を主人とでも思ったのであろうか。
ひと時も傍を離れようとはしなかった。

まるでその様子は、何かのしがらみから遠ざけているような光景。
しかし、それは気のせいではなく、実際には運命の因果から守られていた。

なぜなら、4人の幼子達の中に……1人だけ現世で存在してはならない魂があったからだ。
従って、何度も身に降りかかる死の恐怖。回避しても逃れられない不幸の連続。

白蛇は、この子を魂の消滅から助けていたのであろう。

ではどうして、今ままで死なずに生きてきたのか?
理由は、幼子の父親によって死の危険から助けられていたからだ。

――他者の命と引き換えに…………。

だからといって、前世で犯した罪の因果は決して消え去ることはない。
僅かに命の寿命が伸びるだけ……そう、今は白蛇の助けによって、時の経過が止まっていた。

しかし、やがて訪れるであろう魂の消滅。
ならば、因果の運命に逆らえず、死を待つだけしかないのであろうか……。

こう思われたが、1つだけ抗うがことが出来る唯一の手段があった。
それは白蛇の加護を得る代わりに、業の裁きを受けなければならない。

いわゆる代償というやつだ。

元々白蛇とは、神の遣いや化身以外にも伝えられてきたものがある。
といっても、あまり知られていないと思うが、縁結びの象徴としてご利益があるとされる。

つまり代償というのは、結ぶのではなく引き裂く縁。
この裁きを受け入れれば、白蛇の助けなくとも魂の消滅は免れることができるだろう…………。

第1話 騒々しい日常の風景

 ここは都会の一画に建てられた、ビルの中にある某企業のオフィスルーム。部屋にはデスクを向かい合わせた席が所狭しと並べられており、20人もの男女が忙しそうに与えられた仕事をこなしていた。


 ――そこに、暇そうな1人の女性が男性の元へ歩み寄る。


「ええー、まだ終わってないの? もういいじゃん、夏樹なつきっち。早く休憩いこーよ。ねぇ、いこーよ」

「スミレ先輩。お誘いはありがたいですけど、僕はまだ仕事が終わっていません。なので、もたれ掛かけられると困ります」


 甘えた声で夏樹に寄り添うスミレ。彼女は美しい容姿と豊満な胸を武器に、男なら誰でもコロっと騙されそうな雰囲気を醸し出す。しかし、そんな誘惑などに屈しない彼は、手で軽くあしらいながら押し返そうとした。すると、隣の女性が不意に立ち上がり、押し迫るような表情で話し掛ける。


「そうですよ、先輩。青葉あおばさんが困ってるじゃないですか」

「ふーん。――とかいいながら、さては弥生やよいっち、羨ましいんでしょ」


「――そ、そんな事ないですよ!」

「あのぉ……さっきから、どうでもいいですけど。当たってるんで、離れて貰ってもいいですか」


 スミレの接触にも動じず、淡々と冷静に話す夏樹。彼の背中には、遠慮なく押し付けられる豊満な胸の感触が伝わっていた。その光景をチラ見する周囲の男達。羨ましそうにしながらも、彼女に非難の視線を浴びせていた。


「はて? スミレは、夏樹っちの言ってる意味が、良く分かりません」

「なるほど、そうきましたか。でも、いいんですか? 周りの皆が見てますよ」


「いいじゃん別に、私と夏樹っちの深い仲だもん、ね」

「また、そんなこと言って、他の人が聞いたら勘違いするじゃないですか」


 夏樹は、先輩の絡みを慣れた様子で受け流す。そのやり取りを見た男性陣からは、嫉妬の視線が注がれるが彼は気にする様子もない。そんな光景に終止符を打ったのは、先ほどからスミレと対立していた弥生であった。


「――全然よくないですよ! 仮にもここは、仕事をする職場。不謹慎な行為はやめてください。――ていうか、いつまで青葉さんの背中に乗せてるんですか!」

「乗せてる?」


「はぁ……自覚がないとは、重症ですね」

「うーん。さっきから弥生っちは、何をギャーギャー言っているのでしょうか?」


 スミレは首を傾げながら、意味を理解していない素振りをみせた。この態度に、さすがの弥生も苛立ちを覚えたのだろう。先輩を睨みつけ、声と掌に力を込める。


「白々しいですね。何度も言ってるように、その無駄にでかい物をどかしてって言ってるんですよ!」

「ふーん、無駄にねえー」


「ど、どこをジッと見てるんですか!」

「さて、どこだろう。分かんないなら、教えてあげようか? ねえ、弥生っち」


「――はあ⁉ 分かってますよ、そんなことぐらい。どうせ私の胸は……」


 わざとらしく問いかける言葉に、弥生は自らの胸に手を当てながら落胆する。そんな二人の攻防に呆れた夏樹は、ため息を洩らしながら肩を落とす。


「まあまあ、二人共。皆も見ているし、それぐらいにしといたら」

「それもそうね。ていうか、夏樹っちは、私が寄りかかって迷惑だった?」 


「そうですね、強いて言うなら迷惑ではありませんが、勤務中は控えて頂けた方が嬉しいです」

「えっ、迷惑じゃないの? 嬉しいの? じゃあ、仕事が終わったらサービスしてあげようかな?」


 後輩の注意も、スミレには全く届かない。むしろ彼女は、夏樹の言葉に喜びながら体をくねらせていた。その光景に、弥生は更に苛立ちを募らせる。


「申し訳ありません。どうやら僕の言葉に、誤解があったようですね。では、ハッキリ言わしてもらうなら、こういうことは今後一切やめてください。業務中も、プライベートもです」

「ええーそんなこと言って、ホントは好きなくせに。もうー、夏樹っちの照屋さん」


「ああ、じゃあいいです、そういうことにしておいてください。ではこの際なので、僕からもう1つ確認させてもらってもいいですか」

「確認? もしかして、夏樹っちからの告白かしら? だったら、今はフリーで募集中だから大丈夫よ」


 夏樹の言葉を勝手に解釈して喜ぶスミレ。しかし、彼は淡々と質問を続ける。それはまるで、感情の無いロボットのように。


「――なわけないじゃないですか。確認というのはですね、スミレ先輩がいつも僕に言ってる呼び方についてです」

「呼び方?」


「はい。フレンドリーに接してくれるのは嬉しいのですが、スミレ先輩は僕の彼女じゃありませんよね。なので、今の呼ばれ方には少々抵抗があるんです」

「そうなの? だったら、抵抗がないように、彼女にして貰っちゃおうかなぁー」


 再び夏樹に抱きつきながら甘い誘惑をするスミレ。その行動に、弥生が慌てて止めに入る。


「――はぁ⁉ 先輩はまた、何を訳の分からないことを。そんなの駄目に決まってるじゃないですか!」


 スミレは口元へ指先を当て、それとなく想いを伝えた。この抜け駆けが許せなかったのか、弥生はオフィス内に響くような声で言葉を放つ。すると、これに反応する周りの同僚達。何が起きたのかと、一斉に三人の方に顔を向けて凝視する。


 ――が、スミレの悪ふざけだと気付き、何もなかったかのように再び仕事に戻る。


「あれー、弥生っち、突然どうしたの?」

「どうしたのじゃありませんよ。皆に注目されて、恥ずかしいじゃないですか」


「そう? 私は別に、恥ずかしくないけど」

「もうー、先輩はいつもそうやって。――それより、早く離れてください!」


 顔を真っ赤にしながら、弥生はスミレの体を強引に引き離す。そして、何か言いたげな面持ちで、二人は向かい合った…………。


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