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第14話 俺の家庭教師は男です!

 テストを乗り切ったといっていいだろう。

 期末テスト最終日。最後の最後に数学という鬼畜なテスト日程を終え、帰り支度をしていると、谷川と東がふらふらと寄ってきた。この顔は撃沈間違いなしだな。


「瑠星、なんか自信ありげじゃね?」

「いつも通りだけど? 平均点いってればラッキーかな」

「平均点!? あの瑠星が、今、平均点といったぞ」

「裏切り者!」


 大げさな二人は、これが家庭教師の威力かとかいって泣きまねをしている。

 まあ、そうだよな。間違いなく淳之輔先生の力だよ。


「けど、よく続いてるよな、家庭教師なんて」

「予備校通うよりは楽だし、俺に向いてたんだと思う」

「あー、通わなくていいのは確かに良さそうだよな」

「でも、美浜大だっけ? そんな秀才とよく何時間も一緒にいられるよな」

「毎日の授業だって一時間聞くの必死なのにな」

「まあ、教えるの上手いし、結構面白い先生だし」


 ちょうど一昨日、数学の直前対策をしてくれたのを思い出す。まるで自分のテスト対策なんじゃないかってくらい、ガクブルしていたのも面白かった。


 何でそんなに青い顔してるのかって聞いたら、これで赤点とったら、授業代を出してくれてる親御さんに申し訳なさすぎるだろうって泣きそうな顔になったんだよな。いつもげらげら笑って兄貴風ふかせてるのに、急に気弱になって。

 淳之輔先生の変化が面白かったのと、なんか可愛くも見えたことを思い出して、つい笑ってしまった。


 すると、何を思ったのか谷川と東は顔を見合った。


「瑠星、家庭教師は本当に男なのか?」

「は?」

「本当は女子大生なんじゃないのか!?」

「俺らに嘘ついて、エッチなご褒美おねだりしてんじゃないだろうな!?」


 どうしたらそういう勘違いが出来るんだか。

 ずいっと顔を近づける二人に呆れながら「バーカ」といえば、白状しろといいながら二人はじゃれついてくる始末だ。それを見た女子には呆れた目を向けられたけど、やっとテストが終わったんだなって実感がわいてきた。


 俺らがバカ騒ぎしていると、女子が数人「ねえ、若槻くん」と声をかけてきた。そうして、持っていたスマホの画面を俺に向けて「この人、誰!?」と食い気味に尋ねた。


 俺たちの視線が画面に向けられる。

 そこには、淳之輔先生と顔を突きつけるようにしている俺の姿があった。先生は片手にバーガー持ってるし、間違いなく二週間前に外で偶然あった時の写真だ。

 見られていた。っていうか、写真まで撮られていただなんて。

 返す言葉がわからずにいると、画面が拡大され、もう一度突きつけられる。それを見た谷川と東が、悲鳴に近い声を上げた。


「うっわ、なにこのイケメン」

「めっちゃ美人じゃねえ? え、男?」

「若槻君のお兄さん!?」

「あれ? 瑠星って一人っ子だよな?」


 東がぽろっというと、女子は目を輝かせて「どんな関係なの!?」と食いついてきた。関係も何も──


「その人が、俺の家庭教師だけど」


 他に答えようがなくて、そういうと女子の目がますます輝いた。何かを期待するような眼差しなんだけど。何でそういう反応になるんだろうか。


「芸能人とかじゃないの? すっごいカッコいいね!」

「もしかして、モデルとかやってるの?」

「いや、ただの大学生だと思うけど」

「ああ、ガチで男だったのか……女子大生の夢が。おっぱいが消えていく」

「美人だけど、身長高いし、どう頑張っても男だな……」


 女子たちの盛り上がりに反し、谷川と東の沈みようといったら見事なものだ。


「こんな素敵な先生だったら、私も家庭教師お願いしたい」

「わかる! いいなぁ」

「でも、ドキドキしちゃって授業にならないかも」


 女子は黄色い声を上げて頷き合っている。

 っていうか、恥ずかしいからその写真消してほしいんだけど。それに、盗撮は良くないと思うぞ。

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