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化け物喰い
猫柳円
文芸・その他ショートショート
2024年11月20日
公開日
1,116文字
完結
ケチで狡猾な若隠居。「化け物が出る」と噂の化け物屋敷に住むが、若隠居が住み始めた途端に化け物たちは居なくなり……!?

化け物喰い

 江戸の外れに「化け物屋敷」と呼ばれる屋敷があった。


 なんでも幽霊や狐狸妖怪こりようかいみついて、だれしも二日と住んで居られない恐ろしい屋敷だという。

 ケチで狡猾こうかつ若隠居わかいんきょ、誰も住まないなら……とただ同然でこの屋敷に引っ越した。


 人が入ったせいか、若隠居のケチ根性が優ったせいか、次第に化け物の噂も聞かなくなった。

 それどころか、若隠居。どこから見つけてきたのか若くて美しい娘と住まいだし、どうやら夫婦になったようだ。

 近隣の町人たちは化け物はいなくなるし、屋敷は綺麗に明るくなるし、安心して昼も夜も屋敷の近くを通ることが出来るようになったと一安心。


 しかしながら、平穏も長くは続かなかった。

 化け物屋敷から若隠居の女房のモノと思われる上半身の死体が出たのだ。

 若隠居は早々に役人に引っ立てられ、代官所だいかんしょに連れて行かれた。


「お代官様。アレは女房ではありませぬ。私がったのは魚にございます」」

「なんだと!? 『った?』そのほうの家から確かに女の上半身の死体が出たではないか」

「いえ……ですからね、その女というのは……」


 驚いたことに、若隠居が喰ったのは女房ではなく「人魚」だという。つまり、人魚の下半身……ので、殺したのはただの魚。無罪だと言い張った。


「なんと。それではその方は人魚を妻にめとったというのであるか?」

「違います、あれは半分人ですので、最後まで喰うのを躊躇ちゅうちょしていただけでございます」

「最後まで……? とうことは居なくなったという他の化け物たちも?」

「はい、

「なんと!」

「幽霊は?」

「とろろ汁にして喰いました」

「ぬっぺっほふは?」

蒟蒻こんにゃくと炒めて喰いました」

「一つ目小僧は?」

「狸が化けていたので鍋にして喰いました」

「なんと豪胆な男だ」

「全ては食事代節約しょくじだいせつやくのため」

「なんとケチな男だ」

狐狸妖怪こりようかいの類は書いて字のごとく、だいたいが歳を重ねた獣。他にも色々と出てきましたが、皆さばいて鍋にして喰いました。しかしながら人魚だけは上半身は女人でしたから、全部喰ってしまうと人を喰ったと同義。人殺しになってしまうと思い、喰うのは魚の部分だけにしたところ、残った胴体を見て通いの小僧が大騒ぎしまして……」

「下半身が人魚だった証拠は! 骨はどこじゃ? 骨は流石に喰らうまい」

「魚の骨は犬猫の大好物。庭に来た野犬が咥えて何処どこかへ行きました」

「う〜むむむ。わかった。喰ったのは人魚だと認めよう!」

「おありがとうございます」

「認める。だがしかし、お前はしばり首、つまり死刑だ!」

「ど、どうしてでございますか? 私が食べたのは女房ではなく人魚だと、たったいま認めて下ったではありませんか!」


「人魚を喰ったのであれば不老不死ふろうふしであろう。殺しても死なないはずじゃ」

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