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第9話:不良といじめられっ子の魔法講座

「魔法‼︎  ついにボクも、正式にファンタジー世界の住人になる時がきたんだねっ!」


「……魔法っつぅと、アレか——〝プニキュア〟とかが使うやつだな」


「あぁ〜確かにプニキュアにも魔法っぽい要素はあるけど……って、魔法知識の出所っ!?

 ま、まさか、見ないよね? 幼少から小学生に大人気の美少女変身ものなんて、阿久津くんは、絶対、見ないよね?」


「あ? プニキュアは全年齢対応だぞ、コラ? 〝プニネオブラック〟は最高にカッケェだろうが? あぁ?」


 有無を言わせぬ蓮斗の圧力に柚月は、


「いえ、なんもないです……はい、プニキュア自分も大好きです」


 と小さく萎んでいった。


「——コホンっ! そろそろいいですか? もう進めちゃいますよ?」


 痺れを切らしたベルがツンっと鼻を背けながら二人を半目で睨む。


 流石に蓮斗と柚月も空気を察してベルの話を聞く体制に、そんな二人の隣にちょこんと並ぶように座り込んだクロマルを見て一瞬でれぇっと頬を緩めたベル。


 ハッと気持ちを切り替え説明を始める。


「昨日の続きになりますが、遥か古の時代……私たち人間には〝魔法〟という概念が存在せず、魔を操りしモノ——〝魔族〟の支配下におかれておりました。

 そんな人間の状況を憂いた〝神〟は人間に一筋の光明、人間の救い手たる〝勇者〟を召喚する力を一部の人間に与えてくださった事が勇者召喚の始まり、という所までは宜いでしょうか?」


「はい! でも現代においては、ボク達が考えているような〝魔王〟は悪! 的な考えはなくて、魔国の王だから〝魔王〟と呼ばれているだけで、魔族も人間もとくに種族の隔たりはない……って事でしたよね?」


 先生と生徒のような構図に満更でもなさそうなベル。


 元気よく応えた柚月に満足そうな笑みで応え、


「じゃぁ、なんで今更〝召喚〟なんてめんどくせぇ真似すんだよ」


 トゲトゲしく投げた蓮斗に対して、


「質問は、あ・と・で、受け付けますね?」


 と優しくはない笑顔でベル先生は応えてくれた。


「初代勇者様のもたらした〝魔法理論〟により、わたくし達人間は魔族と渡り合える力を身につけ、更には勇者様によりもたらされた〝特異能力〟——スキルの事で自在にその力を使用できるようになりました。


 人間は魔族と対等に戦えるだけの力量を身につけ、二種族の争いから長い年月が種族間の優劣を無くし、ごく自然な関係と立ち位置へ変わっていきました。


 正直、わたくしの感覚から言わせていただきますと肌の色の違い程度です——ですが異世界からこられる〝勇者様〟は異様に魔族や魔王という単語に過剰な反応を示される傾向が強いと、口伝でも言われております」


「ああ……まぁ、もしボクらと同じ時代の人なら、特に一部限定的な知識を持っている人は特に反応しちゃうと思います、はい」


「サブカルに浸りすぎなんだよ。勉強と喧嘩してたら、んな暇ねぇだろ」


「前者に関してはグゥの音も出ませんけど、後者に関しては阿久津くんと同じ界隈にいらっしゃる鈴○とか鳳○とかでテッペンを目指される方達限定だと思います」


「っんだそりゃ」


「コホンっ——続けますよぉ? 少し脱線いたしましたが、そういった経緯でわたくし達は魔法とスキルの恩恵を受けている訳ですが、そういった力を使用する上で必要不可欠なモノ——それが」


「はい! 魔力ですっ! 多分〝マナ〟とか〝魔素〟的なナニカを体内に取り込んで、魔力に変換する的な感じですよね!? 

 その魔力を使って魔法を行使するけど、魔法はイメージが大事で、詠唱がいらないのに世界の常識的に詠唱が不可欠みたいなアレっ!」


 ピシャっとうるさく手をあげた柚月が語る内容を余裕の先生スマイルで聞き流したベルはいつの間に拾ったのか柚月のメガネをスチャっと装備し——クイっと指で角度を整えながら応える。


「ユズキさんの仰った事は確かに、魔素と魔力の関係において概ね正解です。

 ですが後半部分のイメージによる魔法事象の完全な補完と構築、対する詠唱の考え方は初代勇者様の提唱された原始魔法理論ですね? 

 それも間違いではありませんが、現代魔法学理論においては少し考えに違いがあります」


「ふぁぃ!?ま、まほうりろん? げんだいりろん? ぇ〜っと、もっと魔法ってイメージしてドーンっ……みたいな、感じでは」


 ニコッと有無を言わせない微笑で返したベルは柚月の妄想を両断するべく言葉を続ける。


「……まず初めに、魔法には魔力と紋章、詠唱の三つが必要になります。

 本来であれば、きちんとした学校に通い、魔力学、紋章学、詠唱学を大凡五年のカリキュラムに分けて覚え、卒業して初めて見習いの〝魔導師〟として認められます。

 まぁ、これが誰でも魔法が使えるわけではない、と言った理由の大部分ですね?」


「あ、そっか……学校に通えない子もいるんだ」


「ふん、学力が貧困と比例して格差が生まれんのはドコもいっしょだろうが。名もねぇ平の家から天才が生まれるのなんざ、だれも望んでいやしねぇ」


 学校に通うという当たり前の認識しか持っていなかった柚月はどことなく俯き気味になり、蓮斗はさらに上から持論を被せた。


「すべての子供達に平等な教育——という建前は立派ですが、理想だけでは立ち行かないのも現実ですね……平民には平民の役割があり、貴族には貴族の義務と責任が存在するように、全ての子供達へ無秩序に平等を与えれば社会の均衡を崩しかねません。


 ——っと、また脱線してしまいましたね? ですがお二人にはそんな時間はないわけで、最速かつ全力で魔法と武闘——つまりは戦う術を得ていただきます。

 レントさんに一つお尋ねしたいのですが? 〝女神様〟とお話しされた時〝基礎紋章〟についてはお聞きになられましたか?」


 ベルの問いに対して蓮斗は数瞬アゴを捻って考え——女神を名乗る女との不愉快なやり取りを思い出し——盛大に顔をしかめながら応えた。


「……ああ、適性に応じた魔法の〝契約紋〟とかなんとかだろ? スペシャルオプションで肉体再構築の時に〝万能紋〟をプレゼントとかなんとかほざいてやがった」


「そ、そうですが……レントさん、女神様と嫌な思い出でもあったのですか? とにかく〝万能紋〟は確かに、素晴らしい才能を授かったと言えます」


 ケッ、と唇を鋭角に尖らせる蓮斗に心配そうな表情を寄せるベルであったが、気持ちを切り替えるように返した。


「はい! はい! アレですよね? 本来は適正が一属性しか使えないのにソレがあれば全属性コンプできるチートな紋章——」


「はい、不正解です」


 笑顔に〝少し黙ってろ〟と貼り付けたベルの微笑みに柚月は瞬間、最初からお座りをキープしているクロマルよりも小さくチュンっとなってお座り状態に移行した。


「紋章の役割を端的に言いますと〝事象の固定と定着化〟を意味しています……例えば」


 言いながらベルがスッと指を伸ばし、蓮斗達の前に突き出す——瞬間、指先に強い光が宿り白光色の輝きを放つと、すぐに消えてしまった。


「これは紋章を介さず、ただ漠然と〝光の魔法をイメージ〟して魔力を変換した結果です。

 確かに結果は起きましたけど、どんな効果をどのように起こすか、という概念がないためにただ光るだけ、という事象が起きました。

 ここに〝辺りを照らし続ける照明の光〟という結果をもたらす紋章を通過させることで——」


 再びベルの指先に光が灯り、しかし次に現れた光は強く発光するのではなく、目で見ても程よい暖色の光を放ちながらベルの指先から離れ、その視界を照らすように一定の位置に漂っている。


「ほへぇ〜、さっきと全然違うっ、コレが魔法かぁ」


「ふふふ、ええ、コレが魔法です。

 本来魔法を行使するために必要な紋章は、一般的に販売されている効果が一定のスクロールを購入するか、紋章学を学び、独自にその効果を発現させ、体内や触媒に刻みます。

 特に体内に刻んだ独自の紋章を一般的には〝契約紋〟と呼びます」


 ニコニコと説明を続けるベルの笑顔に、質問が口の端からこぼれそうな柚月はしかし、黙ってベルの笑顔の圧に屈した。


「お二人が女神さから賜った〝万能紋〟ですが」


「オレの頭にあるイメージをより具体的に権限させるための自由自在に変化する〝型〟みてぇなもんだろ……? 固定の型に嵌めねぇでも、勝手に紋章が構築される的な」


「はい、レントさん百点満点の答えです! ご褒美にお姫様からのキスは如何ですか?」


「うぇっ!?  全然、ボクと対応が違うしっ! そ、それに、ダメだよ、女の子が簡単にキスなんてあげちゃ」


 目を白黒させて抗議の声を上げる柚月に、


「わたくしは、レントさんなら……」


 と満更でもない様子を見せるベル。蓮斗は辟易とした表情で応える。


「下手すりゃ首が飛ぶようなご褒美は願い下げだ……んで? オレらにはその万能紋がある、さっきの説明だと詠唱だなんだもいらねぇんじゃねぇのか?」


 やんわりと気怠げに断りながら話の方向を変えた蓮斗にベルは頬を膨らませる。


「もう、レントさんは意地悪ですね? レントさん今回は不正解ですっ、ブーブーですっ、罰としてキスしてもらおうかしら」


「わぁー、わぁーっ! キスキス言わないで真面目にやってくださいっ、ベルさん」


 ベルと柚月が騒がしくなり始めた辺りで「ワンっ」と終始一番まともに講義を受けていたクロマルのひと鳴きで場は一瞬静寂を取り戻し、ベルも再び冷静に説明を始めるのだった。


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