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第7話:不良と勇者と異世界事情


 謁見時のいざこざから場所は変わり、王城の一室。


 煌びやかな装飾が部屋の柱や壁。

 至る所に施された豪華で気品あふれる室内。


 部屋の中央に設置された、見るからに日本円に換算したら数千万です、と言われても不思議ではない繊細な意匠の散りばめられたテーブル。


 そこで蓮斗と柚月はマリィベルと向かい合う。

 マリィベルの膝にクロマルが納まったところで詳しい話を聞くことになった。


 メイド達が紅茶の芳しい香りを引き連れて蓮斗達の前にカップを並べて行き、テキパキと給仕を済ませると静かに部屋から退室していく。


見計ったかのようにマリィベルが口を開いた。


「改めて、先ほどは失礼をいたしました。

 特にレント様に至ってはお怪我を負わせずに済んで、本当に——」


「ッチ、そういう前口上はいらねぇよ」


「そうですよ、マリィベルさん! アレは完全に阿久津くんが悪いと思うし!」


 なぜか一人だけ腹を立てたように口元を膨らまし蓮斗をジト目で睨む柚月に煩わしそうに表情を歪めつつ焼き菓子を手に取って柚月の口に押し込んだ。


「——もっ!?」


「馬鹿は菓子でも食っとけ——まぁ、オレの煽りにあの隊長がキレたのがテメェらの予定外だったってだけで、似たような圧力かけてオレの本性ださせるのは予定通りだろうが」


「へ? ほうなの? んくっ——プハっ。確かに阿久津くんを試すとは言ってたけど……模擬戦とかして勇者としての実力を示せっ、て感じの展開になるのかと思ってた——んも」


 再び会話に入り込んできた柚月の口に先ほどよりも多めに菓子を押し込み、蓮斗はマリィベルへと視線を向ける。


「ユズキ様の仰る通り、勇者様の実力を見る——というのは重要な事ですが、わたくし共にとって大切なのは、それ以上にレント様の人間性」


「思惑通りに動く駒かどうかの有用性っつぅことだろ?」


「……ふふ、やっぱりレント様は、わたくしが見込んだ通りの御方です。

 ええ、まさにその通り。独善的な価値観で余計なことに首を突っ込まず、偏った正義感を振りかざさないお方。それがわたくし達の求めていた存在です」


 ふっと肩の力を抜くように語ったマリィベルの言葉に蓮斗は鼻を鳴らす。


 そこへ、菓子を飲み込んだ後、再び口に詰め込まれる前に敢えて出された焼き菓子を全て平らげ、咀嚼し終えた柚月は紅茶でそれらを流し込み、満を辞して会話に参加した。


「————んぐっはぁ。あ、あの! すごく具体的な表現ですけど、なにか理由があるんですよね? 勇者を召喚するってことは、この世界にも、もしかして〝魔王〟的な存在が」


 捲し立てるような柚月の問いかけに、一瞬マリィベルは身を硬らせたが、一拍置くと落ち着いた口調で語り始めた。


「その辺りも順を追ってお話ししていきますが——ユズキ様の仰る〝魔王〟は確かに存在します」


「——っ! やっぱりいるんですね魔王……バトル系は必須かぁ。

 異世界来たけど実は平和でした設定でスローライフを楽しもう系ではないことが確定か。

 うぅ、勢いで来ちゃったけど、戦いなんてボクに出来るかな」


 マリィベルの言葉を聞くなり、ぶつぶつと塞ぎ込んでいく柚月にマリィベルは笑顔で告げた。


「ユズキ様は無理をされなくても、ただ巻き込まれてしまっただけなので今回の件に参加されなくても大丈夫ですよ? 

 きちんとした住まいを城内に設けて複数の美女を侍らせながら悠々自適なハーレムライフを送っていただくこともできますし……帰る、と言う選択肢もないことはないです」


「ぇ? っと……異世界の可愛い子に興味はありますけどハーレムとかは別にいらないです。それよりも、帰れるっていうのは?」


 マリィベルは柚月の疑問にその笑顔を崩すことなくスッパリと受け応える。


「ええ、文字通り帰れますよ? わたくしが十年ほど寿命をささげればユズキ様お一人くらいなら」


「ちょ、ちょっと待ってください!? さらっとすごいこと言いましたけど? 寿命ってどう言うことですか?」


「——? そのままの意味ですよ? わたくしの〝生命力〟と引き換えに元の世界へと送り返します……既にお二人をお呼びした時に十五年分くらい消費してしまったので、あと十年くらい——」


「おかしい、おかしいからっ!? 命を大事に! 大きい買い物して気が緩んじゃったノリで命を浪費しちゃダメだからね!? っていうか、ボクたちを呼び出すのにも寿命を使って……」


 特に気負う様子も見せずにサラッと告げられた事実に少なくない衝撃を受ける柚月は、顔を青くしながら俯く。


「……わたくしの命程度でこの事態を回避できるのなら、王女として安いものです。

 ですが、この事も含めてお二人には今までの経緯をお話しさせていただきます」


 マリィベルが居住まいを正し、一呼吸を置いて口を開く。


「まずは、この国——いえ、この世界における〝勇者〟という存在について」

「……なげぇ」


 マリィベルが語り始め、開始三秒ほどで蓮斗が待ったをかけた。


「ぇえ〜っと、阿久津くん? 流石に早すぎないかな?」


「そうですね、まだ始まってもいないと思いますが……」


 マリィベルが困ったように眉根をよせ、柚月も呆れたような視線を向ける。


「勇者がどうとか、魔王がどうとか——んなことぁ、どうでもいい」


「えぇ、すごく大事な所だと思うんだけどなぁ。」


「……」


 引きつった表情で小言を漏らす柚月を無視して蓮斗は真剣な表情でマリィベルと視線を重ねる。


「最初にいっただろうが……、てめぇはオレに何をさせてぇ。そのためにオレはどうすればいい」


「——っ、フフ、本当に意地悪ですね? レント様……それに、わたくしをそんな風に呼ぶのはお父様くらいなものですよ?」


「はっ、不敬罪で罰したくなったか?」


「いいえ、なっちゃいそうで、困っています」


 サラリと気持ちを告げにきたマリィベルに蓮斗は取り合わず肩をすくめる。


 柚月は、


「ふぉおぉお——これが異世界の主人公補正!? 美少女たちがどんどん集まる吸引力!?」


 などと少し赤くなった顔を両手で覆うように隠しながらマリィベルと蓮斗を交互にチラチラと見遣っている。


「レント様にマリィと呼ばれるのも心地良いですが、これからわたくしの事は〝ベル〟とお呼びください。わたくしもお二人の敬称は控えるようにさせていただきます。レントさん、ユズキさん」


 マリィベル改め——〝ベル〟は蓮斗と柚月を見つめた後、力強く告げる。


「レントさんにお願いしたいのは、勇者——高ノ宮たかのみやひじり、及びその勢力のです。その為に、強くなってください。この国の誰よりも」


「ぇ——高ノ宮、聖……ッ」


 ベルの語った内容よりもそのに反応し、震える体を抱きしめるかのように腕を抱えた柚月の様子を横目でチラリと見た蓮斗は、再びベルへと視線を戻し彼女の語る言葉に今度は口を挟むこともなく静かに聞き入っていた。



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