目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第4話:不良と異世界

 蓮斗達のいた“儀式の間”を出た先。


 聳えるのは鮮烈な赤と白のコントラストが美しい壮大な城。


 その城に向かって、まるで巨大な竜が首を伸ばしたような雄大で威厳に満ちた“橋”が蓮斗達のいる場所と王城とを繋いでいた。


「ぅはぁああっ! ここ、こんなに高い場所だったんだ! 

 ねぇねぇ、阿久津くん! 見て、すごい景色だよ!?

 ファンタジーだよっ! ボクたちのいた神殿? ってこの橋でしか渡れないんだね……っ! 

 うぇえええ!? 阿久津くん! 竜だよ!この橋、本当に竜だよ」


「……うるせぇ。おまえキャラ弾けすぎだろ。学校でもそんぐらい喋ろ」


 親戚に子供のお守りを押し付けられたようにうんざりとした表情を隠すことなく晒す蓮斗が後ろを歩く柚月へと振り返る。


 そこには確かに“竜”が存在していた。


 巨大な胴体からは悠然と翼を生やし、その中心から天に伸びる塔こそ、蓮斗達が先ほどまでいた儀式の間であり、蓮斗達は現在、まさに竜の首の上を歩いていた。


「……スケールのでけぇ彫刻だなおい」


「いいえ? この白煌竜はくこうりゅうは本物ですよ? 

 初代グレントール王国の国王様が従えていたのがこの白煌竜。

 わたくしたちは竜帝様とお呼びしておりますが、建国して間も無くこの地を襲った〝厄災〟を打ち払い、この国に安寧と永遠の守護をもたらすため、自らこの国の礎となった……。

 と、故にこの国では竜を国の紋章とし、敬っているのです」


「へぇえ〜! すごい、本当にすごいよ阿久津くん! ボク達この国の守神的なんだね」


「——コホン、正確には首の上に架けられた“橋”ですよ? ユズキ様」


「どう見ても、でけぇ竜が城に噛み付いてるようにしか見えねぇけどな」


「レント様? それはわかっていても言わないのがこの国で生きるための暗黙のルール、というモノです」


 一国の王女相手に歯に衣着せぬ物言いの蓮斗達に対し、所々で後ろから付いてくる護衛の鋭い視線が向けられる。


 その都度マリィベルが威圧して牽制していたりする。


「別に止めなくていいんだぜ? こちとら喧嘩上等だ、いつでも相手してやんよ」


「ふふふ? レント様? わたくしにも立場というものがあります。

 わたくしの大切なお客様に不遜な態度をとった部下の首が飛ぶのは、わたくしの望むところではありません」


 マリィベルの一見穏やかな、しかし酷く冷え切った声色に蓮斗の背後でびくりと肩を震わせた護衛達。


 攻撃的な雰囲気を一気に散らし、すぐに大人しくなった。


「マリィベルさんってカッコいいんですねぇ〜! 憧れの女性ですっ!」


「ふふ、わたくしも情熱的な殿方は嫌いじゃありませんよ? ユズキ様」


「……ほんとにやりづれぇ女だ」


「レント様は褒めるのがお上手ですね?」


「クゥ〜ン」


「あら、クロちゃんもわたくしを褒めてくれるのかしら? 

 もうレント様じゃなくて、わたくしの従魔にならないかしら……。

 そうだわ、最高級のお肉を準備しましょう」


 大人な対応で蓮斗達の言葉に応えていたが、最後にはクロマルをどのように自分のペットにするかを子供っぽい雰囲気で真剣に考えている様子だった。




 ***




 長い橋を渡り切った先には特に扉などはない。


 一見行き止まりにしか見えないその場所にマリィベルがそっと外壁に対して手を翳した瞬間。


 壁だった部分が半透明に薄く透け始め、城内へと続く通路が現れた。


「え? えッ!? 

 なに、今の! 魔法!? 魔法ですか! マリィベルさん!?」


 こちらで目が覚めてから異常にハイテンションが続いている柚月がグイグイとマリィベルへ詰め寄る。


「は、はい……距離が近いです、ユズキ様。

 コホンッ——別の世界から来られたお二方には“魔法”のご説明もしなければなりませんね。


 今わたくしが行ったのは、魔法と言うよりも、わたくしの“魔力波”をキーにして“結界”のロックを外した、と言うのが正しいです。

 皆様が先ほどまでいらした“儀式の間”もとい“竜帝の祭壇”は竜帝様の御身体を含め祭壇ごと特殊な結界で覆われております。


 ですので外部からの干渉はもちろん、城内からも選ばれた人間にしか、この扉を開くことができません」


 特に興味を向けない蓮斗を置いて、興味深そうに頷く柚月。


 マリィベルはクロマルの首筋をテクニカルな指つきで柔らかく掻きながら説明する。


「なるほど……指紋認証的な事が魔力で出来るんですね! この世界の人は誰でも魔法が使えるんですか?ぼ、ボクにも……使える、のかな」


「指紋? えぇ、誰でも、と言うと語弊がありますがご自身の“魔法適性”を知り、きちんとした訓練を積めば魔法は覚えられると思いますよ?

 もちろん、ユズキ様からもしっかり魔力は感じますので問題なく覚えられると思います」


「ほ、本当に!? やった、やったぁ! 阿久津くん、聞いた!?

  ボク達も魔法が使えるんだよっ!あぁ、早く覚えてみたいなぁ、魔法」


 学校の廊下で会った時の反応はなんだったのかと言うほど、蓮斗にハイテンションをシェアしてくる柚月に対し、煩わしそうに「……別人がすぎんだろ」と蓮斗は溢す。


「ゆ、ユズキ様は本当に面白い方ですね」


「おもしれぇのは認めるが、馬鹿はもう少しなんとかしてほしいな。

 柚月、オレらはちょっと大人の話があっからよ。

 おまえはその辺で遊んどけ」


「ひ、ひどいよ阿久津くん! それにってなんか卑猥! 

 って、ちょっと待って、阿久津くん。なんで……ボクの名前」


「……ほんっと、馬鹿だなおまえ。

 マリィベル、ほっといて案内続けていいぞ」


 蓮斗は柚月を見ながら一瞬目を細めたが、それ以上何も言わずマリィベルに案内を促し、


「え! ちょっと待ってよ、なんで、しかも下の名前……ちょ、ちょっとっ!! 阿久津くんってば」


後ろからピーピーと騒がしい柚月を無視して苦笑いのマリィベルの後に続いた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?