こうして、催眠と頭脳を駆使して影のOSSの情報にアクセス。彼らが日向に干渉しうる影として警戒してきたアメリカ市民たちの名簿から、最も目立たず有効そうなセルラオを見出だして接触し、計画を進めていたのだ。
またあるとき、ガブリエルは森の中に佇む廃墟と化した教会に足を踏み入れたのである。
両開きの大扉から一歩進むや、四方八方から不可視のラルヴァが襲ってきたが、同等の霊体であるエンプーサに妨害させた。
「ほう」
そこから、信徒席の列に挟まれて真っ直ぐ延びる通路の先。半壊した祭壇に掛ける人物が感嘆を洩らす。
襟を立てた表が黒く裏地の赤いマントを羽織り、テールコートを着用した壮年男性。ウェーブの掛かった長い白髪と白ひげに縁取られた厳つい顔の幽鬼。
レスタトだった。
「ここをねぐらにして間もないというのに、ハンターでもなくラルヴァに対抗できるほどの人間が訪問するとはな。面白い、何者だ?」
「老生はガブリエル」
催眠で使役するエンプーサに守護されながら、臆せずに彼は自己紹介をした。
「とある発明を、超科学の異能で進化させた装置の実験をしていてね。そいつはどことでも瞬時に電波のやり取りが出来る。応用すれば、どこにいようと相手を操れるんだ」
ガブリエルはゆったりと歩みだす。
「この有効範囲を見極めるために、最近隠れている吸血鬼を見つけては証言させ、中でも最も捜索が困難そうなヴァンパイアを捜せるかの挑戦の結果、君を発見した」
話終えて足を止めたとき、ちょうどレスタトと相対する位置にまで到達していた。
「それで?」ヴァンパイアはさらに試す。「ただ捜しただけとかいう下らん動機なら、隠れていたいのでな。殺すぞ」
「無理だし君はやらんよ」
後ろで手を組んで、老人は提案する。
「ヴァンパイアたちに証言させてきた限り、ある吸血鬼たちに遺恨があるようだからね。老生なら手を貸せるはずだよ」
護衛のため低級な霊ラルヴァを自身のヴァンパイアとしての異能〝魅了〟でやっと手懐けているレスタトだ。女神に仕えるエンプーサを操る人間、まして、最もうまく隠れている吸血鬼としての自負がある自分を発見できる人間に、実際それほどの力量ありそうなのは認めざるを得なかった。
だから彼は居住まいを正し、歓迎してやったのだ。
「……聞いてやろう」
ことのき、もうガブリエルの陰謀は完成半ばだった。彼はとっくに自覚していたのである。
足りない、と。
「そうだとも」
自身の本性を自認した彼は、記憶を失って茫然とするテスラを羨むように眺めながら、実験室で呟いたものだった。
「老生は、自己顕示欲の塊なんだろう」
そう。彼の最も巨大な特殊性は、天才的頭脳でも強力な異能でもない。極度に肥大化した自己顕示欲といえた。ために催眠という、無理やりにでも他者へ己を認めさせる能力にも選ばれたのかもしれない。
日陰でも日向でも最高の天才として永久に人類史に名を刻みたいのだと。
それにはどうすべきか。
例えこの時代で頂点に立とうとも、人類の歴史が続く限り自分を超える天才がいつ現れるかもしれない。
ならば、取るべき手立ては一つだ。
彼はすでにイカレた結論を見出し、ゴールに向かって密かに邁進していたのだ。
「老生が頂に到達すると同時に、現生人類を絶滅させてしまえばいい。最も偉大なホモ・サピエンスはガブリエルであったという事実を宇宙に刻み、終わらせるのだ!!」