暗殺者たちはサンジェルマンを警戒しつつ素早く状況を把握し、即座にデイビッドは両腕を挙げて降参した。
「まいった」
首を傾げる初老へと、さらに訴える。
「あんたとは戦わねぇ。要望があるなら聞く。ついでにこの状況と、セルラオとヘスがどうなったか説明してくれるなら感謝状をおまけにつけるが」
ファニーはもちろん、ヨハンナさえも異論を挟まなかった。
遭遇した途端に世界が一変したのだ。でなくとも、トリプルエスランクとまともにぶつかれないのは半分狂った女教皇でさえ自覚があった。
「いいでしょう」
サンジェルマンは応じた。
「では後者の希望から。ご存じでしょうが、我々、宇宙調整者は異能による世の法則の乱れを阻止するのが役目。セルラオはそれに関与していたのですが、どうやらもうそうではないとわかったので、わたしの介入を
「は?」
「その上で、あなた方だけを別世界に移動させたのですよ。無限の可能性がある平行世界のうち、突如人だけが消えた世界にです」
SMIは無言で、相手がとんでもないことを改めて互いに了承した。
なんとしても衝突は避けねばならない。なのに――。
「では前者の方に回答しましょう。要望を聞いてくださると仰いましたね、わたしの望みはずばり」
サンジェルマンは告知した。
「あなた方との殺し合いです」
「ラ・パペッサ!」
ほぼ同時にヨハンナが叫び、サンジェルマンが粉砕される。
もっとも次の瞬間には、事ともせずに初老の怪人は再生していた。
「いいですね、そのいきです」
嫌な予感に、デイビッドは自分と同僚と上司を包む、半透明の障壁を展開。
僅かに遅れ、衝撃波が襲う。
SMIのいた足場から後背が根こそぎ消滅した。
比喩ではない。およそ視認できる範囲が真っ暗に消失したのだ。
街どころか地平線も大地も山もない。星空さえもない無と化していた。
「これはすごい」サンジェルマンは拍手する。「あれを防ぐとは驚きました。ですがやりすぎましたね、戦場が狭まってしまうのはもったいない」
今度は喪失した景色がゆっくりと元に戻りだす。いや、失われた規模からすればとてつもない速度だ。
「……デイビッド」
慧眼はサンジェルマンに向けたまま、隣のヨハンナは震える小声で同僚に囁く。
「わたくしはたぶんこの業界に足を踏み入れて以来、一番恐怖していますわ。さっき彼が宇宙調整者の一員と匂わせたことで、そこに属する複数のSSSランクは意識にあるかと現実化しましたの。つまり彼は、他の何人かのSSSの攻撃にさえ耐えて復活できますのよ」
「逃げるしかないわね!」
衝撃で言葉が詰まる同僚より早く、上司が即断した。ところで、背景の崩壊が修復されきった。
「次は小規模な破壊に留めましょう」
サンジェルマンの宣告に、ファニーは部下二人の身体に手早く触れて唱える。
「スウィート・ファニー・アダムス!」
SMIがいた道路にクレーターができ、三人は跡形もなく消滅した。陥没だけはサンジェルマンの仕業だったが、彼は特段何の反応も示さなかった。