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Coordinator

 やがて、不気味な静穏が訪れる。

 閃光が費え、破壊による破片が降り注ぎ、煙が退いていく。

 道路を抉る線がビルに風穴を空け、さらに彼方まで痕跡を刻んでいた。

 SMIの姿は、ない。


「……ははっ」乾いたセルラオの笑いは、まもなく潤いを含んで炸裂する。「はーはっはっ! ざまあみやがれっ、Sランクを三人も仕留めたぞ! もう怖いもんはねえ!!」


 ロボット上部が紙のように剥がされ、コックピットが丸裸になった。

「は?」


鉄の処女アイアン・メイデンはもらったぜ」

 言ったのは、ロボットの上部を破壊し、後部に乗り込んできたデイビッドだった。

 ファニーとヨハンナもいて、前者はすでに人質の拘束をほどきだしている。

「て、てめえら。いつの間に!?」

 狼狽えるセルラオへと、ヨハンナはいやらしく教授する。

「硝煙で視界が遮られたとき、念のためデイビッドが蜃気楼を残して回り込んでいましたのよ」

「そういうわけだ」

 スミス&ウェッソンの銃口が、カモッラのボスに突きつけられる。その行為をしたデイビッドは、冷酷に引導を渡した。

暗殺完了ヒットってな。メインディッシュはヘスだが、あんたを始末する依頼もついでに受けてる。欲をかいて係わるべきじゃなかったな。ヨハンナと違っておれはサディストじゃないから一発で逝かせてやるよ」

「前戯なしじゃ退屈ですのに」


「返答がどうあれあなたも殺すけど、いいわよね?」

 硬直して言動をやめてしまっているセルラオをよそに、ファニーがヘスに尋ねる。

「調べてるだろうがおれは分身だ」ヘスは平気そうだった。「死んでもロンドン塔に拘留中の本体に統合されるだけ。捕虜に逆戻りだが、こんなやつに捕まってるよりはマシだよ」

 その蔑むような眼差しは、セルラオに突き刺さっていた。


「……く、くそったれが」

 セルラオは喚いた。

「ガブリエルの野郎、おれでもSランクとやりあえるって嘯いたろうに。騙しやがって!」


「「「ガブリエル!?」」」

 聞き捨てならない名前に、SMIの全員が声を揃えた。

 途端だった。


「そう、ガブリエル」

 これまで、その場のどこにもなかった紳士然とした声が言った。

「彼は嘘をついてはいませんよ。君はSランクに匹敵する力量を会得しましたが、多勢に無勢ですし、なにより相手が悪い」

 後方からだ。SMIの。


 ところが、誰もが金縛りに遭ったように身動きひとつできなくなっていた。

 否。思考以外の時間が止まっていた。

 戦闘によって舞っていた煙幕や炎や石粒が中空で静止し、逃げ惑う一般市民も彫像のように固まっている。中には、跳ねたまま宙に留まる者さえいた。

 紳士的な台詞のみが紡がれる。

「ただし、あなたは見捨てられたようだ。セルラオ」

 音声を発していたのは男だった。

 五十代ほどで中肉中背。中世ヨーロッパの貴族のような身なりで、短い銀髪の利発そうな白人。

 彼は、わざわざSMIの全員から目視できる位置にまで歩行すると、三人の暗殺者へと恭しくお辞儀をした。


「お初にお目にかかります。わたしは、サンジェルマンと申す者です」


 そこにいたのはまさしく、歴史資料の肖像画にあるサンジェルマン伯爵だった。

「……サンジェルマン!!」

 気付けばSMIの三人は動けるようになっていて、デイビッドは叫んでいた。

 そしてそのときにはもう、世界が変容した。

 SMIとサンジェルマン以外に人影が喪失している。

 ルドルフ・ヘスとセルラオはもちろん、人型ロボットすらなくなっていた。それら以外の、建物や車といった人工物はそのままなのに。かつて人がいたであろう位置には、着衣のみが散らばっているのだ。

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