「……待って」
ファニーは、口元に人差し指を当てて沈黙を促した。
反射的に部下たちが息を潜める。
と、傍らの瓦礫が崩れた。見上げれば、シャンデリアも微かに揺れている。
どうやら、建物が振動しているようだ。
「なんですの、これ」
疑問をヨハンナが発したとき。
ドォーン!
一際強大な衝撃と爆音が遥か頭上で起こり、背後に移った。
SMIの三人が見返る。
失われた大扉の奥。道路のさっきまで彼らがいたところに、妙なものが鎮座していた。
「巨人!?」
とっさに口をついて出たファニーの単語が、そいつの容姿をうまく表現していた。
巨人、否、鉄の巨人。
身長十七フィートほど。足下の道路が陥没してるところから、どうやら上から降ってきたらしい。周りには上階を構成していた鉄筋コンクリートの残骸もいくらか転がっている。
そんな災害をもたらしただろう犯人は、まさに人型のロボットだった。
「上から、壁を突き破って飛び降りてきましたの?」
さっきの出来事からヨハンナが推理し、デイビッドは何かを目撃した。
「あいつは!」
同時、巨人の背中側から箱状のパーツが両肩に競り上がった。そこには、おのおのに九つの穴が綺麗に並んでいる。
――穴からは、三角の物体が頭を出した。
「まずい!」
ファニーが悟ったときには遅かった。
鉄巨人両肩のパーツはミサイルランチャーだったのだ。
否応なしに計十八発のミサイルを発射。セルラオ・ファミリーのビル一階に直撃させる。
一階から吹き抜けの二階までもがSMIごと爆散。ビルは地中に飲みこまれるように、隣接する建物ごと崩壊した。
鉄巨人だけが、足と背中から噴射した炎の勢いでジャンプして離れた道路に着陸。
足裏のパーツが車輪に置き換わり、背中のジェット噴射も向きを変え、高速で道路を滑るように走り去った。
ややあって、元セルラオ・ファミリーのアジトたる瓦礫の山が噴火した。
残骸が退けられた中央にはSMIの三人が、拳を掲げたデイビッドを中心に無事でいる。彼の異能で
「こっちもサンドイッチにされるとはな」
デイビッドが洩らし、ヨハンナは疑問を呈した。
「どういうことですの、あの鉄巨人は?」
「さあな、頭にゃ脳みそ代わりにセルラオが乗ってたが。背後には縛られたヘスもいたよ」
「確実なの?」
訊いたのはファニーだ。
「間違いないス、正体を確認しようと透視したんで」
「ならセルラオの特異能力の可能性があるわね。あんなものを作る技術、アメリカにもないはず」
そして彼女は言い及ぶ。
「おそらく、
「古代人が超古代文明を遺した原因っていわれる、あの異能ですか? 科学技術を進化させるっていう」
「ですけどこの規模」ヨハンナが感心したように口を挟む。「Xランク、ましてやVランクなんてとんでもありませんわ。Zはありそうですもの」
異能のレベルでXYZが使われるのは、未測定能力の推定値を表す場合だ。XはN~Vクラス、YがF~Mクラス、ZがE~SSSクラスとされる。
セルラオはこの最下位、〝判別が儘ならないほど微弱〟と定義されるVランクとさえ認識されていたのだ。
「とにかく」ファニーが急かす。「追わなきゃだけど、どこに行ったのか――」
――遠方での爆発。SMIの位置からも火と煙の柱が窺える。
「……たぶん、あれだな」
デイビッドがそいつを仰いで言及した直後、同様の爆発がまた発生する。
「鉄則なんてお構いなしという有様ですわね」
指摘したヨハンナに、デイビッドが推測した。
「修復したりごまかせる特異能力もあるのか、あるいは……」
「サンジェルマンの後ろ盾が健在なのかもね」先に言い及んだファニーは、爆発のあった方向に手の平を翳した。「どちらにせよ、急行した方がいいわ!」