ビル内部のホールでは、一階から吹き抜け二階のバルコニーまでに整列したおよそ五十のセルラオ・ファミリーが、スーツ姿でトミーガンを乱射していた。
狙いは入口の大扉。外にいるであろう暗殺者たちだ。
瞬く間に、木製扉はボロボロの板になっていく。
千発ほどの弾丸をくらわしたところで、銃撃は次第に止んでいった。
「……
静けさを取り戻した室内で幹部の一人が言及すると、みなが笑った。
風穴があいた木版の隙間からも、外界の様相は夜なのでよく窺えない。けれども、あんな数の鉛をくらって無事な常人などいるはずもない。
「最近、こういうのはサンジェルマンに任せてたからな」別の幹部が言う。「それこそ、残飯掃除はあいつがやってくれるだろ、問題ねーよ。派手に歓迎してやれってボスのお達しだ」
また全員が嘲笑う。
途端だった。
大扉が内部に向けて吹っ飛んだ。
半壊したとはいえそれなりに頑丈な板だ。勢いも凄まじく、そいつはスロットやポーカーやルーレットや一連の台と一緒に十人ほどのカモッラを巻き添えに奥底の壁へクレーターを築いた。
唖然とするギャングたちを、表と筒抜けになった玄関に侵入してきた三人の影が悠然と見渡す。
「おっと」うち一人、デイビッドが開口する。「日向をハンバーガーにしちまったみたいですけど、いいんすよね?」
両手の平を突き出した格好だった。さっきのは、彼の怪力によるものだったのだ。
「手出ししてきたのは向こうだし」隣でファニーが認可する。「国レベルの事情が絡むから、OSSが処理してくれるそうよ」
「ちっ、お偉方の特権は嫌いだな」
「ま、早々に仕事を終えましょう。理由は知らないけど、こんなことしてくるからにはサンジェルマンの介入はなさそうだし。彼がいたならとっくにやられてるわ」
「では」三つの影の最後、ヨハンナが妖艶に宣告した。「彼らの命を賭けに、カジノで遊ばせてもらいますわね」
「……な、なにしてる。撃ちまくれ!」
ようやく、セルラオ一家の幹部が命じた。
「う、撃てー! 鉛に沈めちまえ!!」
別の幹部も号令を発する。
我に返ったように、残弾のあったカモッラたちが銃撃を再開。他も弾倉を替え、それに加わっていく。
とはいえ。
全部の弾丸がSMIの目前で完全に停止し、地面に散らばるだけだった。
「スウィート・ファニー・アダムス」
囁いたファニーが異能を強化する。
銃弾は徐々に飛距離を失い、やがてトミーガンごと粉々になった。カモッラの手中で、銃身まで砂鉄に分解されたのだ。
銃声はやみ、鉄粉が床上に零れる音に変じた。
四十人ほどとなったカモッラは、さっき以上に茫然とする。
「雑魚はどうします?」
デイビッドが上司に確認する。
「セルラオ以外は無知だそうよ」ファニーは回答した。「信用ないクズどもが異能について日向に洩らしてもホラ話扱いでしょうし、必要なら政府が記憶改変の異能者なりを派遣するはずよ」
「そうすね。協定の範囲外だ、おれたちは依頼だけこなしましょう」
そして、SMIは屋内に進行しだした。
「な、なんなんだ」カモッラの幹部が、恐怖に駆られて叫ぶ。「こいつら。まるで、サンジェルマンだ!」
「ひ、ひいー!!」
部下の一人が情けない悲鳴を上げたのがきっかけだった。
幹部もまとめてカモッラは全員度を失い、暗殺者たちから逃れるように建物の深部へと敗走しだした。
ところが。
一番先頭が部屋を抜ける寸前で、彼らは感電したように痙攣。次々と倒れていった。体中に穴が空き、トミーガンの連射でもくらったかの如く。
SMIは足を止める。
間に、セルラオ・ファミリーは全滅していった。
「ヨハンナ」呆れてデイビッドが意見する。「おまえは耳穴までセックス用か?」
そう、女教皇で銃撃を返したのは彼女だった。
「殺すな、とまでは命令されませんでしたわよ。お犬さん」
悪びれもしない明答だったので、デイビッドとファニーは苦笑いするしかなかった。
「……さてと」デイビッドは気を取り直した。「んじゃ、ヘスを捜しましょうかね」